第57話 生きるとは感じること

「生物が機械だなどと言ったら、抵抗があるだろうね。」


「ええ。

作りものじゃないから、生き物なんじゃなくて?」


「作りものか。

人が作ったものという意味だね。」


「――そうよ。」


「人工でない存在という点では、例えば岩石もそうだが、しかし普通、岩が生きているとは言わんな。」


「――そうね。」


「生物とは天然の産物であるという仮説は蓋然がいぜんに正しそうだ。

では天然の産物のうち、生物と非生物の境界はどこに引かれるのだろうか。

仮に、人の手によらず、自然の中から生まれてくる機械があったとしたら、

それはやはり作りものだろうか?」


「わかんないわ。

そんな機械、見たことないもの。」


アマリリスは苛立ちも隠さずに言い放った。

わけの分からない屁理屈を並べ立てて人に難癖をつけて、一体この人は何がしたいのだろう、と思った。

クリプトメリアは困ったような笑顔で黙り込んでしまった。




「生きているって、何かを感じることだと思うわ。」


しばらくして、アマリリスは口を開いた。


「うれしいとか、楽しいとか、

苦しい、とか。


朝日を浴びたひまわりはとても幸せそうだわ。

あー、今日も一日、太陽の姿を見られるんだ、って、ひまわりが喜んでいるからよ。


仔ヤギは、産まれてすぐなのに母親のあとをぴったりついて回って、そういう時は本当に安心しきってるの。


一度、後産がどうしても下りなくて母親が死んじゃったことがあるんだけど、

その時の仔ヤギは、見ているのも辛いくらい、不安で怯えてて、まるで魂の半分がどこかに行っちゃったみたいだった。


生きてるって、そういうことじゃないの?


ダケカンバの木は、いつも冷たい風と霧に苦しめられて、ねじれて、

それでも何かを掴み取ろうとしてるみたいに枝をはわせて、あたし結構好きだわ。

トワトワトに来てよかったと思う。


でもアマロックは、

やっぱりよく分からないわ。

何を感じてて、何を考えてるのか。

魔族には魂がない、ってよく言いますよね?

だからなのかな。

あー、でもアマロックだけじゃなくて、オオカミもよく分からないわ。

サンスポット以外は。」


「サン・・・?」


「サンスポット。

あたしと仲良しのオオカミです。


・・・もし、

もし物を考えたり、うれしいとか苦しいとか感じるぐらいスゴイ機械があったら、

人間が生き物を作れた、ってことになるのかなぁ。」

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