自律創出する世界
第54話 種蒔く意味
”何のために生きてるの”
クリプトメリアは半ば相づちのようなつもりで口を挟んだ。
「
アマリリスがピクリと反応した。
何か気に障ることを言ったろうかと考えたが、そうではないらしい。
「わたしの方が、どこかズレてる。。?」
「そうでは、ない。
視点を変えると、同じ事象が、別の見え方をしてくることがある。
ある方法論では説明のつかない事象も、別のアプローチを取ると、理解できるようになる。
そういう意味だ。」
アマリリスは大きな若草色の瞳で、じっとクリプトメリアを見つめた。
なにか引っ掛かっているが、それを言葉にする方法が分からない、そういう表情。
クリプトメリアは、教育者としては決して手厚い方ではなかったが、こういう目をした生徒に物を教えるのは悪くなかった。
「あなたの抱える問題は、魔族の行動に一貫性のある意図や目的意識を見い出せないということだ。
従って、魔族の行動が理解できない、と感じている。
そうとらえてよいか?」
「――そうよ。」
どうしたことか、ややむっとしたような返事が返ってきた。
「”目的”や”意味”という考えは、今日、我々が物事を理解する上で基本的な、事実上標準の手法となっている。
私たちは万物の目的を問うことで、その意味を理解してきた。
春に種蒔けば、秋には実りを得る。故に農夫は種を蒔くのだろう、といった具合だ。
しかしこれらの概念は、この宇宙や惑星が誕生した時から予め備わっていた法則の類ではなく、
実は我々人間が、自分達のために発明した応用技術なのだよ。
動燃機関を用いて天然鉱石からエネルギーを取り出すのと同じく、世界のありさまから理解を引き出し知恵を得るためのツールのひとつに過ぎない。
そのことを教えてあげよう。」
アマリリスはぽかんとしている。
こういう娘に理解させるのは手に余る予感はありつつ、クリプトメリアは話しはじめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます