第557話 模索のススメ#3

すれ違い、離れていく、5頭と2頭のオオカミの群を、

アマロックは人間の姿で、離れた場所――アーニャとワーニャの岩屋の岩の上から眺めていた。

彼の群と、かつて彼の配下だった者の群。


その光景に哀切を感じる心を、魔族は持たない。

かれらが興味を引かれるのは、もっと別な考え事だった。



嘆かわしい現実は、アマリリスにとっては嘆く以外に受け止めようもないものだったが、

オシヨロフの領袖りょうしゅうにとっては、変化させなければならない現実の問題だった。


物理的な力関係でいえば、アマロックがアフロジオンに数段勝っている。

その点で両者に認識のズレはなく、わざわざ闘争によって確かめるまでもなかった。

しかし両者の間に横たわる問題は、力による強制では解決しない類のものだった。


主食のアカシカ狩りの戦力として、両者はお互いの存在を欲している。

この点にも議論の余地はなく、両者はそれぞれ目標とする利害を掲げつつ、他方の協業を期待している。


アフロジオンの目標は繁殖機会の獲得であり、かつての首領に対する謀反は手段であってそれ自体が目的ではない。

そしてその手段を必要としたのは、ひと群で二組以上のペアが同時に仔を産み育てるのは現実的に難しいという経済的事情による。


一方でアマロックの側には、目下のところオオカミとの間に仔を持つつもりはなく、

この冬と、来る春についてアフロジオンに繁殖機会を与えるという点については妥協可能だった。


問題は、アフロジオンとスピカのペアが出産し、必ずや必要となる育児の補助を群の他の仲間に求めるようになれば、

事実上、首領の座はアフロジオンに移ったということになってしまう。

自らの生存手段として、オシヨロフの群を配下に確保しておきたいアマロックとしては、それが譲れない点だった。


一見すると和解の余地などどこにもない、対立の宿命にあるように思える状況でも、

彼我の目論見、妥協可能・不可能な分岐線の位置を確認していけば、思わぬところに和平の小径が現れることもある。

今日のところは見つからなかったとしても、模索し続けることが、往々にしてよい結果をもたらすことにつながる。



強まりはじめた雪と風に乗って、白い吹き流しのような姿が、上空から近づいてきた。

水面を渡るヘビのように、それは長い胴を波打ってくねらせ、風に身体を立てて方向を変えると、

アマロックの立つ岩の上へふわりと舞い降りた。


翼があるわけでもなしに宙を飛翔する白竜は、長大な身体を軽やかにしならせ、すっかり懐いた様子で、アマロックの周囲を駆け巡った。


白竜の、そしてオシヨロフのあるじは思案を続けていた。

そう、軋轢の解決には得てして、対立する2者に加えて、第3の存在を必要とするものだった。

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