第385話 超常の形象
少女との話が済むと、女は視線を上げ、アマリリスをじっと見つめてきた。
アマリリスは内心かなりびくびくしていたが、ここでまた女に屈服することはプライドが許さず、
今回は女の視線自体にこちらを圧殺するような気迫はなかったこともあり、目を反らしたくなる誘惑に歯を食いしばってこらえた。
女はやがてどこか遠くを見るような眼差しになり、おもむろに腰に巻いた毛皮の帯を解くと、
その場にはアマリリスのみならずマフタルもいたわけだが、気にする素振りもなく、衣服を脱ぎはじめた。
前身頃を開けば、容易に肩から滑り落ちていった長衣の下から現れた裸身は、――頬や手首に覗いていた唐草模様の紋様からも予想できたことだが、
その全身に、女の過ごした年月そのものをその厚みとして蓄えたかのような圧巻と、一方で長年の仇敵だったこの惑星の重力と和解を模索しつつあるようにも見える乳房や臀部にも、
腹や背中、四肢に至るまで、黒い蔦草が絡みついたような刺青が施されていた。
痛々しくもあり、今の時代では多くの人が信じなくなった超常の力が、形象を伴って現れたようなその刺青から、アマリリスはなかなか目が離せなかった。
そのせいでかえって反応が遅れたのだが、女が、脱ぎ捨てた衣服の中から拾い上げた毛皮を、裸になった腰に巻きつけたとき、
その変化はごく自然に目に映った。
刺青の女など最初から存在しなかったかのようにその姿は跡形もなく、かわりに、はじめからそこに居たような佇まいで、大きなカールした角を持つ動物が立っていた。
アマリリスはしばらく呆気にとられてから、ようやく全てを理解した。
「――あんただったんかい。
今度こそ答えてもらうわ、アマロックをどこにやったの?」
もともと意思疎通の難しい相手をつかまえて、よりによって対話が完全に不可能になった今、それを問うことの滑稽さにすら気づかないほど、アマリリスは必死だった。
その思いは通じたのだろうか、ユキヒツジとなった女が示した角の動きは、アマリリスに、ついておいでと言っているように感じられた。
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