第166話 一番話したかった相手

二人がしばらく他愛ないおしゃべりをしていたところに、実験所の裏手の坂道から、覇気のない足取りでアマリリスが降りてきた。


「あ、おかえりー。早かったね。」


「よぉ、バーリシュナ。」


「ただいま、ファーベル。


・・・よぉ、アマロック。」


フードの奥でみどりの瞳が、翡翠のしずくのように濡れた光をたたえ、アマロックを睨んでいた。


人魚の魔族との思わぬ遭遇に興奮して、道を間違え、実験所の裏の台地に出てしまった。

誰かに話したくて矢も盾もたまらず、クリプトメリアのカヌーが浮かぶオシヨロフ湾を横目に、先を急いでいたとき、

一番話したかった相手が浜を歩いてくるのを見て、小躍りするような気持ちで駆け戻ってきた。


ところが、さっきの二人の様子を見て、すっかり話す気がなくなってしまった。


「寒いでしょ、先にウチ入ってて。

すぐ片付けたら、お茶淹れるから。」


「それじゃ、中で待たせてもらおうか。」


アマロックに促され、アマリリスは無言で建物の中に入った。

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