第416話 誰の意志なの?

さて、あたしはあたしで自分がするべきことを探そう。

さしあたり、この城砦から逃げ出せる抜け道がないか探そう。


アマロック率いる狂戦士バーサーカー軍団を送り出したあとの、石化の森のファサード同様、

樹洞のバルコニーの出入り口は、ベラキュリアたちに促されて城内に戻ると、まるで元からそこにあった壁のように閉じてしまった。

何度見ても目を奪われてしまう、秘密の合言葉で開閉するという盗賊の岩屋のような、網樹の魔法。


アマリリスは改めてその壁をしげしげと眺め、表面を撫でてみた。

やはりただの岩としか思えない。

マフタルは、大半は実際に石くれで、網樹の組織がにかわのように石つぶ同士を繋ぎ止めているのだと言っていたけれど。


「・・・あたしにはやっぱわからない。

この岩の中にも、網樹が染み込んでるんだよね?」


「ぼくも、触ってみないとわからないんだ。

じわじわ、くすぐったいような感じがするんだよね。

この城砦で今まで触ったところで、網樹を感じないところはなかったよ。」


もしかしてこの城砦自体、城砦全体が網樹によって作られた?

そう考えたほうが、地面から生えてきた岩の植物の茂みのような、熱にうなされた夢が具現化したようなこの城砦のフォルムは受け入れ易いぐらいだ。


その一方で、むき出しの岩が落ちてきそうな天井を支える放射アーチ、プロムナードの床を埋めるペーブメントは、荒削りながら熔結凝灰岩の岩を切り出したブロックで作られている。

網樹が、それらを固定するセメントの役割をしているとしても、そういう建材が人、ないし人間に近い形態の手以外から作り出されたとは考えにくい。


どこまでがベラキュリアの仕事で、どこからが網樹による造化なのか、はっきりとは分からないし、もはや区別をつけることも不可能なのかも知れない。

それらが渾然となって、人間が建設した最高の傑作に匹敵する、あるいは遥かに凌駕するこの城砦を形作り、合理的に機能させている。

合理性――この壁が、あたしたちを閉じ込める「ために」閉じたように、

城砦自体が――人間が目にするところの――意志や目的まで持っていると言えるなら、、あたしたちがそれをかいくぐって抜け道を見つける可能性はあるんだろうか?

そもそも、城砦が意志を持つって、、、


「この城砦に支配者はいない、って言ってたよね。」


「そうなの?初耳。」


(そうだった。お風呂でベラキュリアに聞いたんだっけ)


そんなことを考えてみても仕方ない。

しかし、


「支配者がいないなら、、それは誰の意志なの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る