第479話 ヤナギランの丘#2

城砦の方角から、空中に浮遊してキラキラと煌めく、砂煙のようなものが湧き出ていた。

青空のキャンバスに撒かれた金粉のように見えていたそれは、みるみるうちに大きくなって、

アマリリスの頭上に列をなし、ざーっという羽音とともに通り過ぎていく。

金色の甲冑に身を包み、片翼が身長の数倍はありそうな半透明のはねで飛び立った、ヴァルキュリアの播種個体による群舞だった。


その場に居た全員が、羽ばたきのたびに、真珠貝の殻のようにてんでに光が踊り跳ねる飛翔を見上げていた。

さすがに個々の性別までは判別できないけど、、

どうか、ササユキの願いが叶っていますように、と祈った。


視線を降ろすと、金色の帯の下、一面の緑のツンドラの野にうごめく、赤茶けたホコリのようなものが目についた。

何だろう?

アマリリスは目を凝らし、それからはっと息を呑んだ。



トヌペカもまた、ユクと共によく放牧にいったその獣の一群を見つめていた。

白拍子シパシクルくつわに囚われ、重い足取りで億劫そうに草を食んでいたアカシカたちが、今は新しい生命を得たように生き生きと駆けている。

彼女たちに気づくと、アカシカの群は優美な曲線を描いて針路を変え、涸れ沢を次々に飛び越えて、その先の丘へと走り去っていった。


「さてと。

帰りの船も来たことだし、おれたちはそろそろ行こうか。」


「そだねっ。」


アマロックに続いてアマリリスも立ち上がり、

マフタルとファべ子に、じゃ、またね!と手を振った。

マフタルと、ファべ子もが手を振り返してきた。



去り際にアマロックがマフタルを手招きした。


チェルナリアの女王がよろしくと。

縁があったらまたおまえと組みたいとさ。」


「ありがとう。

でも、魔族と関わるのはもうやめておくよ。」


マフタルは凛として言った。

それは、娘を託されたユクのために、彼が自分に課した償いでもあった。


「そっちの方向性に行ったか。。

まぁお前の人生だ、せいぜい悔いのないように生きるがいい。」

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