第129話 逢魔ケ刻#1

日没が近づいてきていた。


午後はほとんど歩きづめだったが、下り道のおかげで、三日間の行軍に消耗した体にも、それほど苦痛を感じずにすんだ。


今日中に麓まで下りてしまうだろうかと思っていたけど、もう一泊野宿か。。

まぁいいや、いずれにしても明日には帰れるだろう。




あたりにそろそろ、見通しの利かない夕刻の藍色がただよう頃、アマロックは足を止め、

谷間に差し込むあかがね色の光を透かして、北の空を見上げた。


アマリリスも同じ方角を目で追った。



谷を隔てて、やや見上げる位置の丘の上、幾つかの人影を見つけて、アマリリスは凍りついた。


人間? こんなところに?



・・・いや、違う。


そう思ったのは、その姿形が細かく見分けられたからではなく、6、7人分のその人影のあいだに空けられた、奇妙なのせいだった。


これが人間だったら、彼らの間柄が友好でも敵対であっても、きっとこんな間隔にはならない、という気がした。


見回すと、西の稜線にも2、3、人影が見分けられた。

長いマントのようなものをまとい、奇妙に縦長に見える姿。


周囲にさっと黒い影が落ち、振り仰ぐと3羽のヴィーヴルが音もなく、悠々と空を舞っていた。


ぎゅっと胃がせり上がる感じがした。

囲まれた。

あと一歩で、異界の奥地から抜け出すというときに、恐ろしい魔族の群れによって。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る