第329話 いちばんたいせつなもの
アマロックと高地に行くに当たって、一つだけ気がかりというか、
不安とも期待とも覚悟とも言える、ない混ぜになった思惑があった。
ミもフタもない言い方をすれば、いよいよアマロックにヤられちゃうかも知れないな、という考えである。
魔族は、獣。
特にケダモノと呼んだ時には、淫奔というか、さかりがついて、それ以外のことが考えられなくなったオス犬のニュアンスを含んでいる。
アマロックに、そういうギラギラ感はないが、それだけに、金色の瞳の奥で何を考えているか、そら恐ろしい。
助けなど来るはずもない幻力の森で、いつなんどき、組み敷かれてケダモノの餌食になってもおかしくない危険と、いつも背中合せなのは確かだ。
まあ、そうなったらそうなったで、自分の肉体の支配権ぐらいは、自業自得として部分的に諦めざるをえない、という覚悟はあった。
しかし、出来れば、そういう形であって欲しくはなかった。
アマリリスは、未だ見ぬその絆に、期待してもいた。
そうすることが、この魔族という生き物と心を通い合わせる、唯一の方法かも知れない、という予感のほかに、
子供っぽい、単純な好奇心もある。
少なくとも、イヤだと思う気持ちはなかった。
その一方で、処女喪失には、相当の痛みを覚悟しなければならないと聞く。
『こぉ〜〜するより痛かった』
非常にわかりやすい体験談として、ヒルプシムはアマリリスの口の両端に指を引っ掛けて、左右に力一杯引っ張り、
アマリリスはぎゃあっと悲鳴をあげた。
『んもー、動かれるたんびに痛くって。
2度とするもんかって思ったわよ。』
パンドラの箱を二人で開けるのは、ロマンチックな時間であってほしい。
せめてその先でもたらされるものは、喜びも苦しみも、二人の共通の宝であってほしい。
それなのに、自分だけそんな思いをするというのは勘弁だ。
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