第5話 洗礼の始まり、ヨソモノの終わり
1
「はい。ここがアマセ君の部屋よ。その
シャノリアに従い、直方体に
紫とピンクの混ざった色をした魔石が
「おい、シャノリア。あのベッドは――」
「ああ。ここ、相部屋なのよ。個室が使える人は
「誰かと一緒なのか?」
「ふふ。聞いて驚きなさい、ケイ。なんとここ、相部屋だけど――当分の間、ケイ以外誰も使う予定がないのよ!」
なぜか誇らしげにマリスタ。こいつ、知ってることを教えるときはやたらイキイキとするな。癖なのか。
「つまり……相方のいない
「正しくは、『相方が休学中の相部屋』ね。ここ、プレジアの生徒会長君が一人で使ってた相部屋なのよ」
「生徒会長……が、いるのか。ということは、生徒会が……?」
「あるよ。生徒会とか風紀委員会とか、あと色々。意外と権力強いから、活動も活発らしいよ。どっちもよく知らないけど」
特に気にする様子もなくマリスタ。だが、関係者でもない限り縁遠いのが生徒会というものだろう。
……しかし、その生徒会の長が休学中とは。
「別に
「ああ、病気とかじゃないの。彼の場合は……『
「……お家柄?」
「会長のギリート君は
……キゾク。
それはやはり、高貴な一族、という文字を当てる貴族なんだろうな。
こんな世界だ、貴族がいたって何も不思議じゃない。
「ああ……アマセ君。貴族について教えるとね」
俺の表情から察したらしいシャノリアが補足してくれる。
「今で言うリシディアの『貴族』は、昔リシディアにあった貴族制度の名残みたいなものでね。名前だけは残ってたりするけど、今ではほとんど公的な権力は持ってないわ。ただ、」
「例外があるのよ! シャノリア先生の『ディノバーツ家』とか、ギリート君とこの『イグニトリオ家』とか――私、マリスタの『アルテアス家』とかね!」
……何だと?
シャノリアを見る。金髪の
「……それじゃあ、お前達って……貴族なのか。それも、力のある?」
「その通り! ディノバーツ、アルテアス、イグニトリオ、そしてティアルバーの四つの家を指して、リシディア王国の『四大貴族』なんて呼ばれてるのよ! すごいっしょ!」
目を最大限にキラキラさせてマリスタ。割と見慣れたその表情のせいで、
それを更に察してか、シャノリアが再び苦しい笑い声を漏らす。
「私達四大貴族の家は、当時、国の名前にもなってるリシディア家と一緒に、建国に関わった歴史があってね。貴族制度が廃れた今でも、それなりに力を持っていたりするの。……こちらがそのつもりがなくても、相手から敬意を向けられたり、とかね」
なんだか影のある表情で、シャノリアが言う。
考えてみればそれほどの家柄でありながら、一介の魔法学校の教師をしているというのは妙な気もする。屋敷の大きさや立地など、貴族と聞いてなんとなく
「そう!! ほんともー困っちゃいますよねー先生っ!」
……こいつからはそんな苦労を
というか、お家柄がそれほどでありながらレッドローブというのはどういうことなんだ。マリスタ・アルテアス。
初対面から決して印象は良くなかったが、ここまで階段を転げ落ちるように、俺の中でのマリスタのイメージは落下(
「まあそんなわけで、ギリート君がいないのは家庭の事情ね。他に質問はある?」
「あ、ああ……この後、出来ればどちらかに学校の案内を頼みたいんだ」
「はいはい! それなら私が行きますっ!」
赤毛を
「ええ、それじゃよろしく頼むわね、マリスタ。私は仕事があって職員室区画に戻るから、何かあったらそこまで来てね――とと、そうだった。忘れるところだったわ」
金髪を波打たせるようにして振り向いたシャノリアが、黒いローブの内側に手を入れ、懐から眼鏡を取り出した。パッと見、何の
「メガネか? どうするんだ、それ」
「この眼鏡には、レンズ越しに見た文字を、読める言葉に翻訳する魔法が込められているの。これがあれば自学習にも困らないと思うから、遠慮なく使って」
「……悪いな。ここまでしてもらって」
「私はあなたをここに紹介しただけ。その他は全部、プレジアからの支給品よ。至れり尽くせり、って感じよね。しっかり学びなさい――
「!」
「うふふ、私もマリスタに乗っかってみました。あ、嫌だったら言ってね、マリスタのも
「え?!?!」
「乗っかってみました」って。教師だろ、あんた。
いや、別にどちらでも構わないんだが。
「……別に構わない。
「ええ、ありがたく
ニコリとほほ笑んだ
「さ! それじゃ、さっそく案内したげる! まずはどっからいこうか!」
「まずは部屋を見る」
「ガクーッ……って、まぁそだよね。うん。じゃ、私ここで待たせてもらっていい?」
「ああ。好きなとこにかけててくれ」
「んじゃ失礼してっ」
芸人のようなリアクションを返してきたマリスタは、そのままスススと室内に移動し、学習スペースの椅子にぽすっと腰かけた。
それを横目に、俺も部屋の内装を細かく確認していく。……やはり、風呂は付いていないようだった。
「間取りも私んとことほとんど同じだねー。
「……ちょっと待て、マリスタ」
「はいきた『ちょっと待て』! それよく使うよね」
マリスタが楽しそうに指をさしてくる。
「……今、私の所と同じって言ったよな。お前も寮生活なのか?」
「うん、そだよ。女子寮で二人部屋」
「……そうか」
あっけらかんと言ってのけるマリスタ。こいつのアルテアス家も大貴族というなら、ディノバーツ
「親と一緒だとうるさくってさー。変にカタ苦しいし、寮生活の方が気楽だもん」
何の事情もなかった。
「……そうか」
「ベッドにどーん!」
「おい」
「で、部屋はもういいの?」
掛け布団にくるまりながらマリスタ。靴を履いていることを一瞬注意しかけたが……果たして日本式なのか外国式なのか分からず、ひとまず保留にした。
そんなことより、大切なことがある。
「マリスタ……この学校に、
「だ……大、
いかがわしいのはお前の頭だ。
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