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『ルールは簡単! この長方形の空間で愛をもって戦い、胸と手の甲の愛の証・・・を砕かれれば脱落!! 攻撃手段は魔弾の砲手バレット英雄の鎧ヘロス・ラスタング、そして己の肉体のみ!! 最後まで勝ち残った者が、プレジア最高のカップルの栄光と永遠の幸せを約束されるのですッ!!』

「――スタートした瞬間、この気持ち悪い赤マークとその毒々どくどくしい宝石を破壊するのです。それでこの吐き気のするゲームからも、参加したマリスタ以外の馬鹿共ともオサラバです。今のうちに潜伏先せんぷくさきを考えておくといいですよ。迅速じんそくに隠れられるように」

「……それがいいだろう」



 ――何がどうなってこうなったのか、もうハッキリと思い出せない。

 思い出せるだけの余力が残っていない、と言った方が正しいか。



 だが今はどうでもいい。今はただただ、



『――――レッツ・ラヴ!! ラヴジュエリーファイトッ、スタートですッ!!!』



 この意味不明な状況から、抜け出したいとしか思えなかった。




◆     ◆




『恋に恋した同好会』は何を隠そう、プレジア創設から間もなく作られた、割に長い歴史を持つ同好会である。



 現在こそ他人の恋路こいじはやし立てる軽い者が多い同好会ではあるが、中核ちゅうかくとなるメンバーは、美男美女を狙う無法の盗撮魔とうさつまを捕らえ、報道委員会ほうどういいんかいを通して認可の下りた写真のみを学内で流通させるようにしたり、過去流血沙汰りゅうけつざたまで起きた泥棒猫どろぼうねこ達の血で血を洗う争いを、FC《ファンクラブ》という形を作って収束させたりなど、こいあいした者とされた者、「双方の意志を尊重する」恋愛を、思春期の学生の中に浸透しんとうさせてきた。



 その活動が(ギリートによる偏見でもって、ではあるが)認められ、今回のイベントが開かれているわけである。



 ゆえに、参加者はパールゥのようにみょうな動機を持った者ばかりではなく。



「……なになに、優勝者には…………あっ」

「何見てんだ? ケイミー」

「! ア、アトロ……どして、ここに」

「や、その……探してたんだ。お前を。この時間には仕事、終わるって言ってたろ?」

「あ……そっか」

「これって、パンフレットにもやたらデカデカと書いてあったイベントだよな? なになに、優勝者には…………おお」



 そううなったのを最後に、看板を見たまま動かなくなってしまうアトロ・バンテラス。

 少し緊張しているのが、隣から見上げたケイミーには分かった。



〝好きな人、いるので〟



(……今かもしれない。タイミング・・・・・



「ねえ、アトロ」

「ん……ん?」

「出てみない、これ。一緒に」

「…………え、」



 遠くを見つめ、耳を染めながらつぶやく少女に。

 少年は息を飲んで、「うん」とだけ答えた。

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