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 手に違和感いわかん

 伝わるギリートの狼狽ろうばい

 力を込めた腕が――――演出から外れた・・・・・・・力をともなった一撃が、予定外の方向にギリートを押し退ける。



 だがなお、俺は――――折れかけの青き魔剣まけんを振り上げ、赤き神へと叩き付ける。



「――――――お、」



 起源剣イディクリスがひびれ。



 魔剣ルートヴィスハイゲンが、折れくだける。



「おおおおおお――――――!!!!」

「――――――ッ!!」



 ギリートの見開かれた目。



 大貴族だいきぞくを前にしての高揚こうようかん



 ああ、本当に、久し振りだ。








 この手に握られた冷たい剣・・・・で、敵を追い詰めるこの感覚は。







 ――――ギリートの握るオモチャの剣がくだけ散る。

 奴の身体が飛び、照明の当たらない空中を経て客席へと落下する。

 やっぱりだ・・・・・。立ち位置を俺の攻撃でズラされたというのに、奴は当初の予定通りの場所に倒れ込んだ。奴は、物語の筋書きまで変えて俺を試そうとは思っていない。



 それはそうだろう。

 そんなことをしてしまえば、今まで築き上げてきた「信用」が台無しだものな、生徒会長。



「…………」



 無言で起き上がるギリートの肩口が、魔法の演出効果により、演出通り・・・・大きく斬り裂かれる。

 危なかったな。

 奴があのオモチャの剣で防いでなければ、今頃本物の傷をこさえてい・・・・・・・・・・所だ。



 ――さあ。俺もお前もオモチャを失った。

 どうするギリート、



「――それが最強と名高き黒騎士の剣か。さて、」



 俺はもう、を抜いてるぞ。



「――どう攻略したものかな」



 ギリートの顔が。



 これまでのどの瞬間よりも、ゼタンらしく、笑みにゆがんだ。



 ――引きられたような金属音。

 舞台上空を飛来する、照明を受けて白くひらめいた物体。



 それがギリートの手に収まった瞬間――――砕けたオモチャの残骸ざんがいが全て、影も残らず焼き尽くされた。



〝――お前は爆炎に全てを奪われた――――心的外傷トラウマになっていないはずがない〟



「…………!!!」



 ――居所いどころを失った胃酸いさんのどり上がろうとするのを、腹圧ふくあつで無理やりおさえ込む。

 思わずき込んだ。そして、



「――――ふ。ふふ……!!」



 こみ上げた笑みを、俺もおさえることが出来なかった。



 これほど体に、心に負担がかかっていても――――痛みの呪いは・・・・・・、疼かない《・・・・》。



 成功のきざしは、もっと前からあった。

 だがこうして今壁と向き合って、ようやくそれを確信することが出来る。



 偶然は二度起こらない。

 俺が用意したこの環境の中のどこかに、痛みの呪いを抑制よくせいする秘密が間違いなく存在するんだ。



 進んでいる。

 俺は今間違いなく、前に進んでいる……!!!!



 ――――笑みを引っ込めろ。



 ギリートを見る。

 不遜ふそんな顔の神が携えるは、先のオモチャとは比べ物にならない圧を放つ、奴の剣――――いまさやに収まった、動かすたびに鈴を振るような音を響かせるきらびやかな装飾の施された西洋剣。



 ギリートのそれとは、明らかに格が違う。

 あれが四大よんだい貴族きぞくが一、イグニトリオ家の嫡男ちゃくなんが持つ魔装剣まそうけん――――



「……それだよ」



 ――奴の、本気。



 俺を見て、奴が笑みをこぼす。

 奴を見て、俺が笑みを零す。



――ああ。



ここから長い台詞せりふが続くのが、惜しい。

やっと、



わたしは待とう、騎士クローネ・・・・・・。この神の座で、お前を〟

〝いいだろう。精々のんびりり返っていろ』、神ゼタン・・・・



 やっと、この時が来たんだ。

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