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「っ!」



 ロハザーの肩で紫電が弾け、彼は顔に苦悶くもんを浮かべて追撃を中止、床に降り立った。

 英雄の鎧ヘロス・ラスタング防御ぼうぎょりょくが幸いし、マリスタもなんとか立ち上がる。

 ロハザーが雷を帯びた拳をマリスタに掲げ、強く握り締めた。

 紫電しでんが乱れ飛ぶ。



「……何なのよそれ。いよいよ隠し玉登場ってワケ?」

「……障壁しょうへきで防いだかよ。でも、もうそんなモンがあろうがカンケーねぇ。この雷光の憑代ライナー・ミュース付与ふよした俺の力なら、テメェの障壁なんぞすぐにカチ割れる。三秒と持たねェぞ」

「ってことは、さっきの障壁のヒビ割れはあんたのパンチか何か?――参ったな。雷のよろいみたいなものってことでしょ?」

雷精らいせいってんだよ。つっても、テメェにゃわかんねぇか」

「……なんとなくわかるよ。メチャメチャ速くなってるし、当然水の魔法は通さないだろうし。さっきの様子だと魔弾の砲手バレットくらいなら気合い・・・だけで消し飛ばせる感じだし。無敵チートじゃんそんなの。ちょっと私にはどうしようもなさそう……やっぱ強いわ、あんた。きっと次の実地じっち試験しけんですぐにアルクスになれるね」

「…………」



 ロハザーがマリスタをる。

 マリスタはニカリと笑った。



 その目には、何の虚飾きょしょくあきらめもない。

 マリスタは今回もやはり、心からの称賛しょうさんをロハザーにおくったのだ。

 ロハザーが目を閉じる。



(……今更だけど。ねたむとか、絶望するとか。そういうのがねーのかよ、あんたには)



 今になってあふれてくる、眼前の少女への疑問。

 だがそれらは言葉で問うにはあまりにもあけすけで、そんな時間も微塵みじんもない。



 であれば、ロハザーが選ぶ道は一つだった。



「――時間がねぇ。悪いけどこのまま、一方的に終わりにさせてもらうぞッ!!」



 そううそぶく。

 残り数十秒に全力をけ、ロハザーは地をる。

 マリスタの背後で紫電しでんが弾け、瞬間的に雷速らいそくに至ったロハザーがそれに導かれるように移動する。

 ようやく動き出すマリスタ。いかずち籠手こてが振り向いた赤毛の頭をつかみ――――少女の全身に、悲鳴さえかき消す万雷ばんらいとどろかせた。



(終わりだ。――もしあんたが、これ以上抵抗・・・・・・できないなら・・・・・・



 ――マリスタが、ロハザーの腕を掴む。



(!?)



 目が合う。マリスタが震える腕を、拳を振りかぶる。腕を掴まれたロハザーは動けない。

 そこに、



(こいつ――――!!)



「ッ――――ゃああああああああッッ!!!」



 七色の魔力に強化ブーストされた拳が、真っ直ぐにロハザーへ突き込まれた。



「ごォ――――――ッ!!!!!??」

「ふぅうううううううっ!!」



 虹の輝きがロハザーを貫通かんつうする。同時に訪れた更なる雷撃に、マリスタがめた歯の隙間すきまから叫びがれた。



 地を転がり、壁に激突して止まる。バチバチと不規則に弾けたスパークがロハザーに更なるうめきをあげさせる瞬間を見て、マリスタは息も荒いままに笑い、痛みを無視して地をる。



「どーやらそのよろい、アンタも相当ムリしてるみたいねッ!」

「ほざけ、こいつは魔法の正当な代償だいしょうだ。テメェのそのテキトーに魔力で強化したパンチと一緒にすんな――――!!」



 ――拳を構え、中央で交わる赤と灰。



「ぐぼッ……!!」

「がぁあッ――――だっ!!!」



 雷によって活性化かっせいかされたロハザーの手数てかずの多さにマリスタが押されていく。

 破れかぶれに放たれたにじの拳はあっさりかわされ――背後で小さな雷鳴。



「ハ――どこ見てんだよッ!!」

「つぅッ――ぅア――――!!」



 背後からの一撃で吹き飛ぶマリスタ。

 少女は空中でなんとか捻転ねんてんして体勢を立て直し、



 眼前で紫電しでん



(――――――待ってこれもしかして、)

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