15



 ココウェルは圭を見下ろし、悩ましげにほおに手を当ててみせる。



「今のそのていたらくじゃあ、とてもじゃないけど騎士に推挙すいきょなんてできないなぁ。困ったなぁ、もったいないなぁ」

「…………!」

一体どうしたらいいのかしら。王国騎士は激務だもの、チンタラと病気がえるのを待ってなんてくれないだろうしぃ…………あー。そういえば、例外もあったんだけなぁ」

「! 例外?」

「そう。メンドくさい試験や適性を見られない、例外」

 ココウェルが、流し目で圭を見る。

 物欲しげな表情をした少年をたっぷりと見つめ、王女は満足そうに微笑ほほえんで彼に顔を近付け――両手で、彼の顔をはさんだ。



「それはね。王族の専属せんぞく騎士きしよ」

「……専属?」

「そうよ。どこにも属さず、何にも縛られず――――いいえ。わたしにだけ属し、わたしにだけ縛られ、頂くわたしだけに仕え――――わたしだけを求めるの」



 両手で少年の顔に触れたまま、王女は彼を壁に押し付ける。



「っ――!?、」



 鼻先が触れる程の距離で、



「――――ケイ・アマセ、」



胸で押しつぶれた乳房ちぶさを意に介さぬほどの情熱で、



「――――騎士きしに。わたしのものになりなさい」



 王女は少年に、短くそう命じた。




◆     ◆




 夜。



 人混ひとごみとえぬりの光でにぎわい、熱気と笑い声に満ちていたプレジアも、今は暗闇の中で静かに眠りについている。

 学祭一日目は終わり、学生の活動できる時間も過ぎた深夜、プレジアを照らすのは、夜間のわずかな薄明かりだけだった。



 そんな薄闇うすやみに、あふれんばかりの光を伴った一団が、突如とつじょ現れた。



 転移てんい魔法陣まほうじんに降り立ったその一団は、夜空の星をちりばめたような外套がいとうを暗闇に光らせながら、別の魔法陣へと隊列をくずさず歩いていく。

 数はそう多くなく、十に届かない程度であろうか。



 陣を乗りぎ、辿り着いた先には――――彼らと同じく、星の散った外套を着たフェイリー・レットラッシュの姿があった。



 いな、フェイリーだけではない。

 彼と同様に、星のような――藍色あいいろに金の刺繍ししゅうが入ったローブを身にまとう十数人の集団が、手狭てぜまな一室に勢ぞろいしている。

 フェイリーが口を開いた。



「待ってたよ、ガイツ。ペトラ」



 プレジア第四層、アルクス詰所つめしょ

 先んじて帰還していた「たて義勇兵ぎゆうへい」――アルクスのメンバーはめいめいに、戻ったガイツらに労いの意を示す。

 ガイツが、その肉体と同じく一切のゆるみの無い目でフェイリーを見た。



「まずは理由から聞こうか。フェイリー・レットラッシュ」



 眼光のするどさに、フェイリーが無意識に深呼吸する。



「そう来るとは思ってた。現状の作戦を伝えるから――」

「違う」

「――ん?」

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