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「そうだ。それに失敗しなかった『完璧』がお前達神の姿だ。だからこそ、俺は堕落してよかったと思う」

「良かっただと?」

「おかげで俺達は、たがいを思い合う心を知った」



 当然、戦いは全て振り付け――――おに監督かんとくシャノリア・ディノバーツによる指導の入ったダンスに近いものだ。

 武器とうの小道具も、豪奢ごうしゃに見えるよろいも、火山をして吹き荒れる火柱も溶岩も、全て演出。

 クラスの連中の技術を総動員した、映画もかくやと思われる程の魔法技術の粋である。――ように、感じられる。

 俺以外の者にとっては、テンションの上がる出来栄えなのかもしれないが――



「……っ……」



 俺にしてみれば、いたずらに心をザワつかせる害悪でしかない。



 ギリートに向かい合う。

 玩具おもちゃの剣を構え、慎重に呼吸を重ねながら、体の調子を逐一ちくいち確認していく。どうやら、「発作ほっさ」は起きていないようだ。



 何がきっかけになって発作が起こるかわからない。

 ふとした次の一声いっせいが、次の火の手が、引き金になるかもしれない。

 発作そのものよりも、「また発作が起こるかもしれない」と考える心、連動し固まる体こそが最大の障害となり、俺の道の前に立ちはだかっていた。



「俺は俺の道をほこりに思う。堕落だらくしようとも再び立ち上がれる、生を許される人間という種を守りたいと思う。この道は、」



 ――いや。

 この道は、



復讐ふくしゅうあきらめろ、けい



 もう、道ですらない。



「この道の果てに、ずっと俺の希望はあり続けているのだ!」



 突っ込む。

 受けてギリートが剣を切り返し、合わせた剣を大きく上下に動かして、次は俺が奴の剣を避ける。

 右からの一撃、足元の右薙みぎなぎ。

 数歩離れ剣をかつぎ、気合と共に袈裟けさ一閃いっせん

 それを避け、床に近づいたタイミングでギリートが俺の剣を踏みつける。

 石塊せっかいのような剣が、俺の喉元のどもとに当てられた。



 ギリートと目線を交わす。



 奴の目はゼタンに染まり切っていて、俺の中のクローネだけを見つめている。ように見える。



「…………っ、」



 ナイセストとも、こうして至近しきん距離きょりで視線を合わせたことがあった。



 あの時感じた殺気は、ギリートの目には感じられない。

 当然だ。どれだけ真に迫ろうと、これはあくまで芝居しばいなのだから。



 実技じつぎ試験しけんから、二ヶ月。

 本気で命をけずり合ったあの日から、もう二ヶ月がとうとしている。



 きっと、これからも時は経ち続ける。

 三ヶ月、半年、一年、十年と、時は過ぎ続ける。



〝選べ。今の・・平穏へいおんか、あの時の・・・・平穏か〟



「……っぁ、」



 俺は、どうなる?



「ああぁぁっ――!!」

「!」

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