第17話 生殺与奪

1

 「お前では勝てない」。



 これまでさんざん、外野から思われているだろうと邪推じゃすいしていた言葉。

 それが目の前にいる大切な友人から発され、マリスタは徐々じょじょ動揺どうようを隠せなくなっていた。



「か。確実に、命を落とすって」

「言葉通りの意味です。貴女ではロハザー・ハイエイトに百パーセント勝てません」

「やってみないと分からないでしょそんな――――」

本意ほんいじゃないんです」

「はい?」

貴女あなたは本当に頑張っています、マリスタ。しゃくな話ですが、ケイさんがくる以前の貴女からは考えられないほど、見違える程に努力するようになりました。ですから私も、貴女にこんな宣告せんこくなどしたくないんです。でもやらなければ。私は貴女を――」

「ああもう――どいて、ナタリー。時間だから」

「マリスタ!」

「呼ばれてるから!」



 マリスタはナタリーを押しのけ、観覧かんらんせきの出口へと移動し、振り返る。



 脳裏のうりに宿るのは、彼女とけいに助けを求めた少年の姿。



「――こんな私でも、待ってくれる人がいるから。期待して、応援してくれる人がいるから。たとえ九十九パーセント負ける勝負でも、挑んでいかなくっちゃ。私が選んだのはそういう道。――そこで見てて、ナタリー! ヴィエルナちゃん!」



 マリスタは遠ざかり、やがて観覧席から姿を消した。

 ナタリー沈痛ちんつうな面持ちで黙り込む。

 響き渡る歓声かんせい。自然目を引かれた二人の視界に入ってきたのは、スペース中央をはさんで対峙たいじするグレーローブとレッドローブ。



「…………すごく大切に、思ってるんだね。マリスタのこと」

「そんなことよりもキースさん。まさか貴女あなた、マリスタをき付けて戦いにり立てるようなことをしてはいないでしょうね?」

頑張がんばろうとは言った。――こんな組み合わせになるなんて、思わなかったから」

「………………」




◆     ◆




「すぅ……――ふぅ。よし。よしッ!!」



 ほおを叩き、こぶしを鳴らし、もう片方の手に打ち付ける。

 決意に光る青いひとみ見据みすえる先には、赤とオレンジの混ざった短い頭髪とうはつを持つグレーローブの男、ロハザー・ハイエイト。



〝気楽なもんだぜ。道楽どうらく魔法まほう学校がっこうに通ってるアンタみたいな奴は〟



 知り合ったときから、たがいに互いを気に入らなかった。

 ロハザーは目をらさない。マリスタは殊更ことさらにそれを意識し、ロハザーににらみを返していく。対してロハザーの目は気だるげで、半分寝ているようにさえ感じられる。

 その目の理由がどうあれ――――彼が、眼前がんぜんのマリスタに微塵みじんも興味をいだいていないことだけは確かだった。

 それが、マリスタにはひたすらに不快で。



「……どういうつもりなワケ、その目。バカにしてるの?」

「なんでここに居るんだ? あんた」

「え?」

あきれてんだよ。誰がどう見たって場違いだ。なんだって転科てんかして一ヶ月で実技じつぎを受けようなんて思ったんだ? 実施回数に制限はあるが、コイツを受けるか受けないかは自由だったはずだろ」

「……そう思うよね。命かってるし、今回受験したのだって、全員で三十二人だけなんだっけ?」

「そうだ。そんだけこの試験はリスクが大きい。この試験で魔力回路ゼーレがイカれて、魔術師まじゅつしそのものを廃業はいぎょうすることになった奴も知ってる。今あんたが立ってるのはそういう場所だって話だ」

「一つ間違い」

「あ?」

あんた・・・が立ってる場所じゃない。俺達・・が立ってる場所でしょ。自分だけさも絶対の安全地帯にいるようなコト言うのはよしなさいよね」

「――――あんた、誰に向かって・・・・・・モノ言ってんだ・・・・・・・?」




◆     ◆




「どうして止めなかったんです? キースさんも」

「…………」

「対戦カードを一目見たときから、貴女にも解ったはずですよね。あの子は――」



〝例え九十九パーセント負ける勝負でも、挑んでいかなくっちゃ〟



「――九十九パーセントじゃない。マリスタは、あれ・・に百パーセント勝てないんだと」

「…………だとしても。私、マリスタを止める権利、ないから」

「権利でなく義務の話をしているんですけどね。いち人間として道徳的、倫理りんり的観点から申し上げているんですけどね。助けられる、助けたい命を救うことに何の権利がいるというのですか?」

「マリスタには、マリスタの戦いがある。それを止めることなんて、誰にも」

「騎士道みた殉教じゅんきょう精神なんて私に説かないでいただけます? 傷をほまれに死を美徳にする貴女あなた傭兵ようへいもどきの英雄ごっこなんて、仕事がら耳に胼胝たこが出来るほど聞いてて大変耳ざわりなので。わかりませんかね。私は貴女を説得も論破ろんぱもしてるつもりないんですよ。気が治まらないので一方的に責め立てたいだけなんですよ。…………。すみません」

「うん。いいよ。気持ち、わかるから」

「……格好かっこう良いことですね、まったく」



 自分を見もせずに返したヴィエルナにナタリーはそう言うと、ピンクのニットぼう目深まぶかにかぶり直し、改めて演習スペースを見る。

 二人の「対立」は、もう始まっているようだった。



「……神に祈りたいなんて初めてです」

「……うん」




◆     ◆




 ……何とか、上手くいった。



 瞬転ラピドで背後を取り、零距離ぜろきょり凍の舞踏ペクエシスを放つ。正直、あまり上策じょうさくだったとは言えないだろう。

 博打ばくちの要素が大き過ぎるし、失敗した後のリスクの想定も万全だったとは言えない……ビージの目が怒りでくらんでいたからこそ成功した作戦だ。



 だが、結果は考え得る限り最高。

 これで、次の戦いをほぼ消耗しょうもう無しの状態で迎えることが出来る。



 ――次は、マリスタか。



 スペースを抜けて、スタッフ役の教師から次の試合に際した簡単な説明を受け。第二ブロック演習スペース、観覧席かんらんせきへと移動する。

 階段を登りきった所に、何やら張り詰めた空気をただよわせるナタリーと、その横にヴィエルナを発見した。

 この二人が一緒にいるのを見るのは久し振りだな。



「おやおや、誰かと思えば先程さきほど初戦を無傷で突破したケイさんじゃありませんか。それで、どんな八百長やおちょうをなさったんですか?」

挨拶あいさつ代わりに人を罵倒ばとうするな性悪しょうわるが。――――」



 パパラッチには視線をらず、スペースへと目を移す。

 英雄の鎧ヘロス・ラスタングを使っているおかげで、はっきりと見える。相手をにらみつけているマリスタと、冷め切った目でそれに応じているロハザーの姿が。



「……ちなみに聞くんですが。貴方あなた、マリスタがどのくらい健闘けんとうするとんでいますか?」

「…………」



 ヴィエルナの気配が、わずかにこちらへ向いたのがわかった。

 この口振りからして、さっきまでマリスタの勝率しょうりつについての話でもしていたんだろう。道理どうりで、めずらしくこの胡散臭うさんくさいニット帽が緊張感のある顔をしていると思った。



「数秒だろうな。こくな話だが、マリスタが勝つ可能性は万に一つもないだろう、この組み合わせでは」

「…………そうですか」



 ナタリーの声。

 顔色一つ変わった気配はない。解っていたということだ……実際、負けは決定的だろう。

 何故なぜなら、マリスタ・アルテアスにとってロハザー・ハイエイトは――――天敵・・にも等しい存在なのだから。




◆     ◆




あんた・・・に言ってんのよ。ロハザー・ハイエイト」

「……グレーだぞ、俺は。レッドなんだぞ、あんたは」

「でも、ケイは戦えた。ベージュローブのテインツ君やバディルオン君と。グレーローブのヴィエルナちゃんと」

「あんた算術さんじゅつ苦手だろ。例外中の例外だ、あんなのは。あんたはあんただ、あいつじゃねぇ。どう転がったってあんたは俺には勝てねぇんだよ」

「そうやってケイも最初は決めつけてた。その辺はみんな一緒よね。……でも、私はケイとたたかえた。それが一カ月前の話よ」

自信じしん過剰かじょうだな」

偏見へんけんがないって言ってよね」

「思い上がりだ。恥ずかしいと思わねぇのか」

「恥じることなんて何もない。私は私なりに積み重ねてきたんだもの。だったら誰よりも、私が私を信じてやらなくてどうするのって話でしょ?…………あいつの後ろ姿に、私はそう教わったの。自分をフラットに見ることが出来るのは、何より自分自身だって」

「…………フラットに見て、それかよ」



 ロハザーが眉根まゆねを寄せ、両断せんとばかりにめ付ける。

 マリスタはニンマリと口のはしを持ち上げた。



「そうだよ。フラットに見てこれ。――正直、めっちゃめちゃ恐いわ」

「は?」

「あったり前じゃん。グレーローブと戦うなんて、初めてなのよ?」



 マリスタが自身の両手を上げ、見つめる。

 その手は痙攣けいれんでも起こしているかのように震えていた。



 ロハザーが小さく目を見開き、マリスタの足を見る。

 赤いローブの隙間すきまからのぞく足はゆったりとしたスウェットで覆われており、見ることは叶わない。



「いちいちふるえ確認しないでよね、えっち」

「えっっっっっ?!? だ、誰がえええええ、え…………っだコラ!」

「ひひっ。……震えてるよ。もうホント、全身ね。でも」



 マリスタは両足で小さく地をみしめ直すと、目線を戻したロハザーの目の前で両手を握りめた。



「これは私の武者震むしゃぶるいなの。負けるつもり、ないからね。私」

「――――……」




◆     ◆




「でも、あいつは食らいついてきた」

「は?」

「戦ったこと。あるんだよね。マリスタと」

「ああ。焼刃やきば魔法まほう小手先こてさきの技術、そしてだい貴族きぞくサマ持ち前の膨大ぼうだい魔力まりょく量にあかせて、無茶むちゃ苦茶くちゃな戦いを仕掛しかけてきたよ。だが、そうやってあいつはどこまでも食らいついてきて……結局、俺は根負けしたんだと思う」

「あなた、マリスタと闘ったんですか?」

「なんだナタリー、聞かされてなかったのか?……どうやらあいつにとって、あれはお前には話したくない『ごと』だったらしいな」

「なんですかその言い回しは上から目線でねばついていて大変に不快で気持ち悪いんですが調子に乗らないでいただけます? 嫌に饒舌じょうぜつなのもまたキモいですねぇ~ホント」

「底が知れないんだ、あいつは。気持ち次第で強くも弱くもなりやがる」

「……ムラがあるって言ってるだけな気もしますが?」

「事実だろう? それに、ムラっけってのは短所でなく一種の才能だよ。それでなくとも、あいつはこれまでその場限りの感情に振り回されてフラフラと浮遊していたんだ。むらとゆらぎは奴の専売特許せんばいとっきょだろ」

「馬鹿にしてるのか褒めてるのかどっちなんですかもうっ! ほんっとに、貴方という男は厄介な――」

「だからわからないって」

「わ――?」

「分からない、の? 結局」

「ああ、まったく」

「だ……だったら初めからそう言ってくださいます??? 回りくどいことこの上ない!」

「なんだ。人がめずらしく親切に話してやってるのに」

傍迷惑はためいわくですから!」

(コーミレイさん、本当にマリスタのことになると余裕よゆう無くなるんだなあ)

「まあ、そういうことだ。俺はあいつが勝つかどうかなんてまったく判らん。判らんが、判らない理由・・・・・・ならよく解る。……だったら、俺は高みの見物とさせてもらうさ。この試合の見料けんりょうが無料なのは……少しばかり、御得おとくというやつだぞ」

「………………」



 顔をヒクつかせ、言葉を失うナタリー。

 ヴィエルナは顔をスペースへと戻しながら、



(…………ほんとに、たくさんしゃべったなぁ。好きなのかな。マリスタのこと)



 などと、少し邪推じゃすいした。




◆     ◆




「分かったよ。もう聞かねえ」

「え」

「自信過剰かじょう。あんたは普段しねぇ自分の努力に酔っちまってんだ。舞い上がってる奴に何言ったって通じねえもんな。さっきのビージと一緒だ」

「何が言いたいの?」

「別に。ただもう、俺とあんたに言葉はいらねぇってだけだ。……もう沢山だマリスタ・アルテアス」



 ロハザーの目つきが変わる。

 途端、マリスタの体に――――あつとしか形容し得ない気配が重くのしかかった。



「っ――――」



 体がきしむ。

 目の裏が痛む。

 眼球がやけに乾燥かんそうし、まばたきが自然と増える。

 体がズシリと重くなり、息遣いがやけに意識され、握りめた手をほどいてダラリとれ下げたい衝動にられる。

 振り払うように、マリスタは一度小さく首を振り、体を張った。



 魔力回路ゼーレを意識し、体に魔力まりょく充填じゅうてんさせる。

 魔波まは対抗たいこうできるのは同じく魔波――――己の放つ圧のみだ。

 マリスタはロハザーの目を見つめ、決して視線を外さない。

 対するロハザーもマリスタを穴が空きそうな程に見つめ返す。

 やがて魔波同士がぶつかり合い、第二ブロック演習スペース内をうねり渦巻うずまく。

 決して目にはえていないはずの衝突を、しかし観覧かんらんせきの圭たち、そして監督官かんとくかんのトルトとペトラは確かに感じていた。



(始まる。いよいよだわ、マリスタ)



 マリスタが右腕を横に振り抜き、手を開く。



(……出バナで怖いのは、魔法まほうよりもケイみたいな瞬転ラピドでの奇襲きしゅう。イメージするのよ)



 試合が始まった瞬間に兵装の盾アルメス・クードを展開し、まずは戦士の抜剣アルス・クルギア所有属性武器エトス・ディミ錬成れんせいする。



(あとは魔弾の砲手バレット援護射撃えんごしゃげきしながら、ガンガン攻め続ける。くやしいけど、地力じりきで差のある相手に距離きょりをとっても追い込まれるだけだから――!)



「――それでは、第二ブロック第二試合、」



 魔波が、主の元へと収束した。



「始め」




◆     ◆




兵装のアルメス――)



 ガクン、って。



 気付けば私は、前のめりに四つんばいのカッコになってた。



「!? え、」



 顔をあげる。

 ……大丈夫。兵装の盾アルメス・クードはちゃんと発動してる。

 そしてハイエイト君は……まったく動いていない。



 え、じゃあ私……なんで倒れてんの?



「いや、今のって倒れるっていうか……」

「どうしたよ? 何が起きたか分かんねぇのか?」



 ヤンキー髪型かみがた男が冷静な口調で挑発してくる。

 誰がそんなのに乗るもんですかって。クソムカつくけど。



 立って中腰ちゅうごしになって――ゆっくり、自分の両ひざ小僧こぞうに触れてみる。……特に変な感じはしない。痛くもない。

 当たり前だ。私はこれまで――――膝が抜ける・・・・・経験なんて、一度だってしたことないんだから。



 さっき私の体、間違いなくヒザから崩れ落ちた・・・・・・・・・感じだった。

 疲れでも、魔力切れでもない。

 じゃあたぶん、原因は。



「……私の体に何をしたの?」

「だったらもう一度試してやろうか。そら――――今度はちゃんと視ろ・・よ?」



 ハイエイト君が笑う。

 それと、同時だった。



「ッ!?」



 むらさきの光。

 それが一瞬、私の視界に伸びたかと思うと――私はまた、足の力を失って倒れた。

 しりもちをついたニブい痛みがお尻に広がる。



 魔法だ。魔法で何かしている。



「っ、だったら精霊のフェクテス・クー――――ッ!!?」



 立ち上がろうと力を入れた腕がまた崩れて、無様に転がってしまう。

 慌てて手を動かしてみたけど、ちゃんと動く。やっぱりハイエイト君は動いていない。

 そして私の精霊の壁フェクテス・クードは――魔法障壁まほうしょうへきは、ちゃんと発動して私を包んでいる。



 ウソでしょ。なんで――



「どうして精霊の壁フェクテス・クードで防げないの――!?」

「下調べもしてねーのかよ。俺の所有属性エトスのことを」

「……あんたの所有属性エトス?」

「ハァ……マジでなんで受験したんだ? あんた。チッ……仕方ねぇ。隠しても意味ねえから教えといてやるよ」

「!――――、」



 パリ、という音。また紫の閃光せんこう。思わず体を固くしちゃったんだけど――でも、今度は体から力は抜けなかった。

 紫は私の目の前で障壁しょうへきに当たって、消えたからだ。



 今度は、障壁に当たった……いや、それよりも。

 私はやっと、ハイエイト君の言おうとしていることが分かった。



 すぐに消える紫の光。

 弾くような高い音。

 ハイエイト君の所有属性エトス



〝おいおい、一体どこの「平民」だよ。こんな騒ぎを学校で起こしやがってんのは〟



 私は、その所有属性エトスを見たことがあって。

 私は、その正体を知っていた。



「――――かみなり――――!」

「そうだよ。俺の所有属性エトスかみなり。基本五属性の中じゃ、最強とうたわれる属性ぞくせいだ!」



 風。

 ハイエイト君の周囲に、小さな稲妻いなずまがいくつもはしった。



 突然、視界が紫色に染まった。



「ッ!!?」



 思わず目をつぶり、腰をかがめて後ずさってしまう。

 目を開けた先には、明らかに私を馬鹿にしているハイエイト君の顔。



「っ、このっ!」

「ハハハッ。届くわけねえだろ、バァーカが! 自分で展開した障壁、忘れたのかよ!」

「~~~~ッ!!!」



 ああ、ああ、ああ。ムカつくムカつく。

 そうだ、私には精霊の壁フェクテス・クードがある。いくら五属性最強とかなんとか言ったって、障壁で防げるのには違いないんだ。

 だったら、私にとってはなんの影響もない。

 敵の攻撃を防ぐ。こっちの攻撃を当てる。

 ただそれだけに、集中してけばいいだけ――!



 手を横にかざす。

 私の魔力が手の中に水の塊を創り出して、ぼこぼこと棒の形を――所有属性武器エトス・ディミを完成させる。



 英雄の鎧ヘロス・ラスタング



「いっっ――くわよ!!」



 地をる。

 と同時に無詠唱でもう一度精霊の壁フェクテス・クード

 これが大正解で、直後に障壁に紫が当たって弾け、砕け散った。

 防いだわよ、あんたの所有属性エトス――!



「ッえええいっ!」



 棒を突き出す。と同時に、私の意思を認知した所有属性武器エトス・ディミがまっすぐにハイエイト君目がけて伸び、あのいけ好かない顔面を一発――――



 棒をつかまれた。

 でも関係ない。私の所有属性武器エトス・ディミは伸縮自在な――



 紫。



 棒が爆発した・・・・



「えっ!?」



 手元から弾かれるようにして、水の棒がただの水に――いえ、完全に消える・・・

 雷に包まれた水が弾け飛んで、魔素のチリになって空気に溶けていってしまう。



 どうして――ケイにこおらされた時は、壊れても消えたりなんてしなかったのに!



「くっ――!!」



 体はもう目の前のハイエイト君に突進してる。

 棒を持っていたのとは反対の手をかざして、水の弾丸、流弾の砲手アクアバレットを背に準備する。ハイエイト君が少しだけ目を開き、同じように弾丸を自分の後ろに作った。雷をまとった弾丸――雷弾の砲手サンダーバレット



「いけぇっ!」

「――――」



 青と紫の光が飛ぶ。爆発で視界が多少くもるはず、そこでまた所有属性武器エトス・ディミを――



 紫が青を突き破――――った。



「えええっ!!?」



 太い声が出てしまう。

 ヤバい、直撃だ。

 いえ大丈夫、まだ精霊の壁フェクテス・クードは残って――



「くっ――――――――あああ1q2w3rああぁ!!?!??!」



 筋肉だけをぶるぶるとふるわされる感覚。

 体の全部が開き切ってしまうような全力感ぜんりょくかん

 痛みとか熱さに似た衝撃しょうげき

 そのぜんぶが、一瞬で体中をけめぐって――――ぬけた。



 う゛、と声が出る。

 どしゃりと体が地に落ちた。

 横向きに、転がった。



 ――――障壁しょうへきが、破られた?



「当たり前だろ。精霊の壁フェクテス・クード兵装の盾アルメス・クードは、時間経過でどんどん効力こうりょくが弱まってくんだぜ。せいぜいもって十数秒――それを勘定かんじょうに入れられないんなら、障壁なんて使いモンになんねーんだぜおじょうサマ!」

「ぐ、ぅっ……!」



 ――立たなきゃ。

 私まだ、あいつに近付けてすらいない。

 せめて立たなきゃ。あいつの前に、立た――



 むらさき



 力を入れた両腕が、またガクンとくずれ落ちる。



 まただ。

 本当に、一体――



「――何なのよ、それっ……!!!」

わかんねえだろ? 知らねぇだろ? 手も足も出ねぇだろ? そうやって地ベタいつくばって、わめくことしか出来ねぇだろ?」

「っ~~!!!!」

「知識も足りねぇ経験も足りねぇ、とっさの機転きてんも分析もきやしねぇ。特に知識は絶望的だ――――だからかみなり属性ぞくせいに、みず属性ぞくせいで真正面から挑むなんて馬鹿な真似まねが出来んだよ!」

「――――ぁ、」

「今更気付くなバカが。押し負けて当然だ――――あんたの水と俺の雷は、完全な優劣ゆうれつ関係かんけいにある!……この意味がわかるか?」

「……………………………………」



 のどが、息を飲んだ。



「あんたの魔法は、一切俺に通用しねぇ。あんたは俺に、百パーセント勝てやしねぇんだよ!」

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