第17話 生殺与奪
1
「お前では勝てない」。
これまでさんざん、外野から思われているだろうと
それが目の前にいる大切な友人から発され、マリスタは
「か。確実に、命を落とすって」
「言葉通りの意味です。貴女ではロハザー・ハイエイトに百パーセント勝てません」
「やってみないと分からないでしょそんな――――」
「
「はい?」
「
「ああもう――どいて、ナタリー。時間だから」
「マリスタ!」
「呼ばれてるから!」
マリスタはナタリーを押しのけ、
「――こんな私でも、待ってくれる人がいるから。期待して、応援してくれる人がいるから。たとえ九十九パーセント負ける勝負でも、挑んでいかなくっちゃ。私が選んだのはそういう道。――そこで見てて、ナタリー! ヴィエルナちゃん!」
マリスタは遠ざかり、やがて観覧席から姿を消した。
ナタリー
響き渡る
「…………すごく大切に、思ってるんだね。マリスタのこと」
「そんなことよりもキースさん。まさか
「
「………………」
◆ ◆
「すぅ……――ふぅ。よし。よしッ!!」
決意に光る青い
〝気楽なもんだぜ。
知り合ったときから、
ロハザーは目を
その目の理由がどうあれ――――彼が、
それが、マリスタにはひたすらに不快で。
「……どういうつもりなワケ、その目。バカにしてるの?」
「なんでここに居るんだ? あんた」
「え?」
「
「……そう思うよね。命
「そうだ。そんだけこの試験はリスクが大きい。この試験で
「一つ間違い」
「あ?」
「
「――――あんた、
◆ ◆
「どうして止めなかったんです? キースさんも」
「…………」
「対戦カードを一目見たときから、貴女にも解った
〝例え九十九パーセント負ける勝負でも、挑んでいかなくっちゃ〟
「――九十九パーセントじゃない。マリスタは、
「…………だとしても。私、マリスタを止める権利、ないから」
「権利でなく義務の話をしているんですけどね。いち人間として道徳的、
「マリスタには、マリスタの戦いがある。それを止めることなんて、誰にも」
「騎士道
「うん。いいよ。気持ち、わかるから」
「……
自分を見もせずに返したヴィエルナにナタリーはそう言うと、ピンクのニット
二人の「対立」は、もう始まっているようだった。
「……神に祈りたいなんて初めてです」
「……うん」
◆ ◆
……何とか、上手くいった。
だが、結果は考え得る限り最高。
これで、次の戦いをほぼ
――次は、マリスタか。
スペースを抜けて、スタッフ役の教師から次の試合に際した簡単な説明を受け。第二ブロック演習スペース、
階段を登りきった所に、何やら張り詰めた空気を
この二人が一緒にいるのを見るのは久し振りだな。
「おやおや、誰かと思えば
「
パパラッチには視線を
「……ちなみに聞くんですが。
「…………」
ヴィエルナの気配が、
この口振りからして、さっきまでマリスタの
「数秒だろうな。
「…………そうですか」
ナタリーの声。
顔色一つ変わった気配はない。解っていたということだ……実際、負けは決定的だろう。
◆ ◆
「
「……グレーだぞ、俺は。レッドなんだぞ、あんたは」
「でも、ケイは戦えた。ベージュローブのテインツ君やバディルオン君と。グレーローブのヴィエルナちゃんと」
「あんた
「そうやってケイも最初は決めつけてた。その辺はみんな一緒よね。……でも、私はケイと
「
「
「思い上がりだ。恥ずかしいと思わねぇのか」
「恥じることなんて何もない。私は私なりに積み重ねてきたんだもの。だったら誰よりも、私が私を信じてやらなくてどうするのって話でしょ?…………あいつの後ろ姿に、私はそう教わったの。自分をフラットに見ることが出来るのは、何より自分自身だって」
「…………フラットに見て、それかよ」
ロハザーが
マリスタはニンマリと口の
「そうだよ。フラットに見てこれ。――正直、めっちゃめちゃ恐いわ」
「は?」
「あったり前じゃん。グレーローブと戦うなんて、初めてなのよ?」
マリスタが自身の両手を上げ、見つめる。
その手は
ロハザーが小さく目を見開き、マリスタの足を見る。
赤いローブの
「いちいち
「えっっっっっ?!? だ、誰がえええええ、え…………っだコラ!」
「ひひっ。……震えてるよ。もうホント、全身ね。でも」
マリスタは両足で小さく地を
「これは私の
「――――……」
◆ ◆
「でも、あいつは食らいついてきた」
「は?」
「戦ったこと。あるんだよね。マリスタと」
「ああ。
「あなた、マリスタと闘ったんですか?」
「なんだナタリー、聞かされてなかったのか?……どうやらあいつにとって、あれはお前には話したくない『
「なんですかその言い回しは上から目線で
「底が知れないんだ、あいつは。気持ち次第で強くも弱くもなりやがる」
「……ムラがあるって言ってるだけな気もしますが?」
「事実だろう? それに、ムラっけってのは短所でなく一種の才能だよ。それでなくとも、あいつはこれまでその場限りの感情に振り回されてフラフラと浮遊していたんだ。むら
「馬鹿にしてるのか褒めてるのかどっちなんですかもうっ! ほんっとに、貴方という男は厄介な――」
「だから
「わ――?」
「分からない、の? 結局」
「ああ、まったく」
「だ……だったら初めからそう言ってくださいます??? 回り
「なんだ。人が
「
(コーミレイさん、本当にマリスタのことになると
「まあ、そういうことだ。俺はあいつが勝つかどうかなんてまったく判らん。判らんが、
「………………」
顔をヒクつかせ、言葉を失うナタリー。
ヴィエルナは顔をスペースへと戻しながら、
(…………ほんとに、たくさんしゃべったなぁ。好きなのかな。マリスタのこと)
などと、少し
◆ ◆
「分かったよ。もう聞かねえ」
「え」
「自信
「何が言いたいの?」
「別に。ただもう、俺とあんたに言葉はいらねぇってだけだ。……もう沢山だマリスタ・アルテアス」
ロハザーの目つきが変わる。
途端、マリスタの体に――――
「っ――――」
体が
目の裏が痛む。
眼球がやけに
体がズシリと重くなり、息遣いがやけに意識され、握り
振り払うように、マリスタは一度小さく首を振り、体を張った。
マリスタはロハザーの目を見つめ、決して視線を外さない。
対するロハザーもマリスタを穴が空きそうな程に見つめ返す。
やがて魔波同士がぶつかり合い、第二ブロック演習スペース内をうねり
決して目には
(始まる。いよいよだわ、マリスタ)
マリスタが右腕を横に振り抜き、手を開く。
(……出バナで怖いのは、
試合が始まった瞬間に
(あとは
「――それでは、第二ブロック第二試合、」
魔波が、主の元へと収束した。
「始め」
◆ ◆
(
ガクン、って。
気付けば私は、前のめりに四つんばいのカッコになってた。
「!? え、」
顔をあげる。
……大丈夫。
そしてハイエイト君は……まったく動いていない。
え、じゃあ私……なんで倒れてんの?
「いや、今のって倒れるっていうか……」
「どうしたよ? 何が起きたか分かんねぇのか?」
ヤンキー
誰がそんなのに乗るもんですかって。クソムカつくけど。
立って
当たり前だ。私はこれまで――――
さっき私の体、間違いなく
疲れでも、魔力切れでもない。
じゃあたぶん、原因は。
「……私の体に何をしたの?」
「だったらもう一度試してやろうか。そら――――今度はちゃんと
ハイエイト君が笑う。
それと、同時だった。
「ッ!?」
それが一瞬、私の視界に伸びたかと思うと――私はまた、足の力を失って倒れた。
魔法だ。魔法で何かしている。
「っ、だったら
立ち上がろうと力を入れた腕がまた崩れて、無様に転がってしまう。
慌てて手を動かしてみたけど、ちゃんと動く。やっぱりハイエイト君は動いていない。
そして私の
ウソでしょ。なんで――
「どうして
「下調べもしてねーのかよ。俺の
「……あんたの
「ハァ……マジでなんで受験したんだ? あんた。チッ……仕方ねぇ。隠しても意味ねえから教えといてやるよ」
「!――――、」
パリ、という音。また紫の
紫は私の目の前で
今度は、障壁に当たった……いや、それよりも。
私はやっと、ハイエイト君の言おうとしていることが分かった。
すぐに消える紫の光。
弾くような高い音。
ハイエイト君の
〝おいおい、一体どこの「平民」だよ。こんな騒ぎを学校で起こしやがってんのは〟
私は、その
私は、その正体を知っていた。
「――――
「そうだよ。俺の
風。
ハイエイト君の周囲に、小さな
突然、視界が紫色に染まった。
「ッ!!?」
思わず目をつぶり、腰をかがめて後ずさってしまう。
目を開けた先には、明らかに私を馬鹿にしているハイエイト君の顔。
「っ、このっ!」
「ハハハッ。届くわけねえだろ、バァーカが! 自分で展開した障壁、忘れたのかよ!」
「~~~~ッ!!!」
ああ、ああ、ああ。ムカつくムカつく。
そうだ、私には
だったら、私にとってはなんの影響もない。
敵の攻撃を防ぐ。こっちの攻撃を当てる。
ただそれだけに、集中してけばいいだけ――!
手を横にかざす。
私の魔力が手の中に水の塊を創り出して、ぼこぼこと棒の形を――
「いっっ――くわよ!!」
地を
と同時に無詠唱でもう一度
これが大正解で、直後に障壁に紫が当たって弾け、砕け散った。
防いだわよ、あんたの
「ッえええいっ!」
棒を突き出す。と同時に、私の意思を認知した
棒をつかまれた。
でも関係ない。私の
紫。
棒が
「えっ!?」
手元から弾かれるようにして、水の棒がただの水に――いえ、完全に
雷に包まれた水が弾け飛んで、魔素のチリになって空気に溶けていってしまう。
どうして――ケイに
「くっ――!!」
体はもう目の前のハイエイト君に突進してる。
棒を持っていたのとは反対の手をかざして、水の弾丸、
「いけぇっ!」
「――――」
青と紫の光が飛ぶ。爆発で視界が多少くもるはず、そこでまた
紫が青を突き破――――った。
「えええっ!!?」
太い声が出てしまう。
ヤバい、直撃だ。
いえ大丈夫、まだ
「くっ――――――――あああ1q2w3rああぁ!!?!??!」
筋肉だけをぶるぶると
体の全部が開き切ってしまうような
痛みとか熱さに似た
そのぜんぶが、一瞬で体中を
う゛、と声が出る。
どしゃりと体が地に落ちた。
横向きに、転がった。
――――
「当たり前だろ。
「ぐ、ぅっ……!」
――立たなきゃ。
私まだ、あいつに近付けてすらいない。
せめて立たなきゃ。あいつの前に、立た――
力を入れた両腕が、またガクンと
まただ。
本当に、一体――
「――何なのよ、それっ……!!!」
「
「っ~~!!!!」
「知識も足りねぇ経験も足りねぇ、とっさの
「――――ぁ、」
「今更気付くなバカが。押し負けて当然だ――――あんたの水と俺の雷は、完全な
「……………………………………」
のどが、息を飲んだ。
「あんたの魔法は、一切俺に通用しねぇ。あんたは俺に、百パーセント勝てやしねぇんだよ!」
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