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「私はこんな五月蠅うるさ地雷原じらいげんなど、一刻いっこくも早くオサラバしたいのです。ですが、時間を取ってあげようじゃありませんか。貴方が満足するまで」

「……お前」

「だから取引です、変な勘違かんちがいしない。時間を与える代わりに、私に情報を寄こしてください」

「情報?」

「あの巨乳と黒服、そしてトルト・ザードチップの情報を」

「トルトもか? そんな回りくどいことを――」

「あの男は実技試験の記録石ディーチェを扱える立場にいました」

「!」

わかります? つまり容疑者ようぎしゃの一人なのですよ、あの男は。急に記憶喪失きおくそうしつだのとわけわからないことを抜かしていますが、本当にそうなのかを確かめる意味でも、今があの不気味な男から根こそぎ聞き出すチャンスだと考えます」

「……わかった。探りを入れてみよう」

「くれぐれも、どこぞの馬の骨にやられたりしないでくださいよ――その為にも、」



 目を閉じたナタリーが向き直る。

 その先で――――パールゥ・フォンは、わずかに目を見開いて身じろいだ。



あれ・・は私が、きっちり足止めしておきますから」

「……お、おう。……あんまりやり過ぎるなよ」

「無駄口。自分のやるべきことに集中しなさい。ただでさえ貴方は病気持ちで、その上ザードチップ先生の前にあのモヒカン男をどうにかしないといけないのですから」

「もひ――」



 ――その半眼はんがんと目を合わせる。

 それを見るだけで、一から十まで余さず理解出来た。

 パールゥから少し距離を空け、隣に立つロハザー。

 なんでお前なんだよ、と問いかけならぬツッコミを入れたくもあったが――あいつ自身が一番不本意ふほんいそうな顔をしていては、最早もはやかける言葉も無い。参加資格を満たしたいパールゥに頭数として引っ張られたのだろう。



〝お前は意図的に人の心をたぶらかしてもてあそんでる不誠実なクズ野郎なんだよ、今のままじゃ〟



 ――あの時から、状況はちっとも好転していない。

リリスティアのことや事件のことなど、色々なことが起こり過ぎたからでもあるが……本をただせば、早急に結論を出さなかった俺に非はある。



 対峙たいじするはずが無かった者達。

 マリスタとココウェル。

 パールゥとナタリー。

 こいつらが今、実技試験の試合者のような雰囲気をまとい、互いをにらみあっている。



 余人に手出しの出来ない空間。

 最早その火を消すことの叶わぬ、争い。



 ……俺にさえどうにも出来ない、修羅場しゅらば



 ――頼むから、誰も怪我けがするな。



 なんて無責任なことを、俺は神に祈るしかなかった。

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