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「見ろよチェニク、ああいうのを才能っていうんだろうな――――盾の砲手エスクドバレットの座標。劇としての演出プラン通りの動き。そしてプラン外の動き――――あいつは今、その三つを頭の中で同時にやってるんだ。事も無げにね」

「……チートだね。ホント、あいつは」

「…………」

「テインツ?」







(……考えるだけなら才能で片付く。だが、奴は三つ同時並行の動きを体でも完全に追い切れている。スーパープレイをどれだけ頭で反復しようとスポーツで勝てるようにはならないように、動く中で体に所作しょさを染みこませていかなければダメだ。つまり、あいつは――――)



「――――中で古本を読んでいる・・・・・・・・・・だけ・・かと思っていたら。重ねていたのか、この戦いを想定した修行を。拘束こうそくちゅう、ただひたすらに……」







「……彼、ずっと体調が悪そうだったんですよ。何か持病持ちなのかな、って思ってたんですけど……今日の劇はまったくそれ感じさせない――」

「演出なのか?」

「え?」

「今の戦いと、先程の爆炎。どれも演出なのか――間違いなく?」

「いや、俺はあまり……一昨日観た劇中には、無かったですが」

「…………」

「大丈夫よ、あなた。きっと危険はない」

「お義母かあさん?」

「私と同じお芝居しばいファンのシャノリアちゃんだもの、危険があったら止めているはずだわ。よっぽどの理由でもない限り」

「…………」

「それに、あれがアドリブなんだとしたら……そう長くもたないでしょうしね」

「……そうですね。アドリブ、劇の動き、そして相手の動きへの反応、魔法……いつかは限界が訪れる。彼ら一体、何を見せるつもりなんでしょうね……」




◆     ◆




〝今の力の最大限、君のすいを見せてくれ〟


「……終わりか」

「っ……」



 ――せるべきは、目の前の観客・・ただ一人のみ。

 だが、あの顔と今の言葉では――――俺は到底とうてい、その域には辿たどり着けていない、ということか。



 もう、そう時間は無い。程無く、ゼタンとクローネの戦いは終わる。

 ギリート・イグニトリオは何を試してる?

奴が求めているものは、ただ力を「見せる」こととは違うのか?



「スキあり」

「!? くそッ――」



 ひだりぎの剣を正面で受けてしまう。

 力が拮抗きっこうした一瞬に力を込め直したギリートが、まるでファイアスターターのように剣身けんしん氷剣ひょうけんの剣身をこすり――――爆炎。

剣と剣が離れた瞬間、光芒こうぼうのように刃から尾を引いた火炎が炸裂さくれつ。俺は精霊の壁フェクテス・クードで爆風を殺しながら吹き飛び、何とか無事に着地した。

油断なく、剣先をギリートに向ける。



〝――ナイセスト・ティアルバーを倒したときの――〟



 ……無茶なことを。

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