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 眼前に現れたのは――――これまで見てきた、どの演習スペースよりも広大な、殺風景さっぷうけい訓練施設くんれんしせつ



 第二十二そうのフロアの中にたった一つしかない、無機質むきしつな空間の入口に、先に行ったクリクターの背姿せなかがある。

 彼は目の前にえられた、その体でさえぎり切れない程に大きな銀河ぎんがいろの魔石に両手をかざし、魔力を集中している。すでに魔波はフロア全体を満たさんばかりに風を起こしてくるい、遠く離れた――――五十メートルは離れているだろうか――――俺にもその魔力量が感じられる。



 魔石から、虹色にじいろに光る線が放出される。

 それは天井付近で光まりを作り、やがてはりのように細い光線を二筋ふたすじ床面に放って――コンパスのように正確に、丁度ちょうど二十四層の演習スペースと同じ大きさの真円しんえんえがき始めた。



 地面を熱しかすような音と共にり込まれたじんから銀河のベールが舞い上がり、物理・魔法障壁を形成していく。

 そして静寂せいじゃく

 オーロラのように揺蕩たゆたう輝きがゆっくりと落ち着きを取り戻し、後には何度も目にしてきた演習スペースの――



 ――クリクターが、もう一つの魔石に手をかざした。



 プレジアがれる。



「!?」



 まぶしいほど黄土おうどの光を放つ、もう一つの魔石ませき

 クリクターは一層強く魔力を込め、詠唱えいしょうする。



土竜の行軍スオロプス



 轟音ごうおん



 巨大な土塊どかい、もとい岩石が、スペースを取り巻くように屹立きつりつした。



 スペースをおお障壁しょうへきよりもずっと高い位置までそびった岩山いわやまは次いで黄土の閃光せんこうを放ちながらへこみ突き成形せいけいされていき、――光がすっかり消えてしまうころにはそこに完全な、観覧席かんらんせきが出来てしまっていた。



「観覧席……」

「プレジアが世界にほこたて義勇兵ぎゆうへい、アルクスです。その選定せんていがどう行われているかは、より多くの人々に知られなければならない、と私は考えます」



 プレジア魔法まほう魔術まじゅつ学校がっこうの学校長が、かたの力を抜いて俺達へ振り返る。



 彼は、にこりと笑った。



「観覧の場くらい、提供しなくてはね――後ろのみなさんに」



 背後が光る。

 見ると、先程さきほど乗ってきた転移てんい魔法陣まほうじんの上には――パールゥやシスティーナ、マリスタの友人達の姿。



「アマセ君っ……!」

「アマセ君。本当に気を付けてね」

「最後まで見てるからねっ、アマセ……!」

「がんばれーっ!」

「頑張って」

「い――一応、応援してるわよ」

「――――」



 ――口を開きかけた、自分がいた。



 人が散っていく。

 魔法陣から次々と出てくる観覧者達。

 彼らは散り散りに、あるいはひとかたまりにそれぞれ移動し、観覧席へとのぼっていく。

 となりにナイセストの気配はない。どうやらスペースへ向かったようだ。

 急がなければ。いつものように、無視していけばいい。



 ……でも。



「…………あぶなくなったらすぐに、避難ひなんしろよ」

『――――!!?』



 ――随分な驚きようだな、全く。

 言わなければよかっただろうか。



 いや、そう。

 これ以上は現実逃避だ。



 少女らを置いて、スペースへ視線を戻す。

 クリクターはまだそこにた。



「君がここへ来た時のことを思い出します」

「え?」

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