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「ルールだ?」

「ああ。……この試験、どんな魔法や魔術も使用可能ってことで大丈夫なんだな?」

「……当たり前だろ。魔法・魔術の使用が禁じられてるアルクスがあるかよ。なんだ、よっぽどヤベえ代物しろものでも持ち込もうってのか。構わねぇ構わねぇ、どんどん持ち込んどけ。死にたくなかったらな」

「……心配しているのか?」

「いちいち人の言葉に名前を付けんなメンドくせぇ。テメェは死ぬって言ってるだけだ、短い付き合いだったな」

「教師ともあろう者が随分ずいぶん偏向へんこうだな」

「お前さんともあろう奴が今日は随分しゃべるじゃねぇか、緊張してんのか」

「してるさ。死の恐怖ってやつだよ」

「何が死の恐怖だ、若造わかぞうがよ。……偏向も何も、お前さんがティアルバーに勝てる道理なんぞ一ミリたりともねぇって言ってんだよ。どんな魔術を持とうがどんな奇策きさくを練ろうが、お前はヴィエルナ・キースの二のまいを演じることになる。それだけだ」



 転移魔法陣が白い光を吐き出し、止まる瞬間のエレベーターのような浮遊感をともなって俺達を運ぶ。



「……恐れが過ぎやしないか、あんた。確かにナイセスト・ティアルバーは規格外きかくがいなんだろうが――」

わかっちゃねぇな」



 トルトが、まるでみじめな下等かとう生物せいぶつを見るかのように顔をゆがめ、嘆息たんそくする。



「お前さんはな、自分がいどもうとしているモンの大きさが解っちゃいねぇんだよ。理解できてたら、一縷いちるの希望だって持てるはずがねぇからな」

「絶対的な実力が云々うんぬん、なんて話はしてくれるなよ。耳に胼胝たこができるほど聞かされてきた」

「そんなモンで済めば良かったのにな」

「……何?」

「ただ実力が『本物』ってだけなら、テメーは手酷てひどくやられるだけでんだかもしれねぇ。だがお前さんの相手は大貴族だいきぞくだ。このリシディアさえ手玉にとってきたような連中なんだぜ?」

「……リシディアを手玉に?」

「ああ。聞いたことはねぇか? 王権、政権――――権力をにぎった人間のええところは、その手腕しゅわんや実力なんかじゃねぇ――――常人じょうじんでは想像もつかねぇような目的、手段、思想……魔術だ。ああいう高みに上った連中はな、必ずと言っていいほど何かしら『やみ』を抱えてくさっていやがる」



 ……闇……?



「……それが一体、なんだって言うんだ。試合には何の関係もない……やはりあんた、今日は何かおかしいな」

「ケッ、人がめずらしく話し込んでやったってのによ――そら、着くぞ」



 光のベールがかれる。

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