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「あのときの君は、どこかくすんだ目をしていた。進むべき道が見いだせないまま、このプレジアの門を叩いたのだと、そう思いました」

「………………」

「ですが、今は違う……君の目は、大望たいぼうを成さんとまばゆいばかりの意志を放っている。そして数ある障害しょうがいを乗り越え、今ここに立っている」



 クリクターはが手を広げる。

 そして俺をスペースへと――決戦の場へとうながした。



舞台ぶたいは整いました。見せてください、あなた達の義勇ぎゆうすいを」

「――――――」



 ……義勇。



 今初めて意識したそんな言葉を、俺は――意識の奥底おくそこに打ち捨てた。



 スペースへ歩く。



〝その試験はトーナメント形式で、個人の総合的な戦闘能力を問われる〟



 決勝戦の場へ。



〝ま、いつも優勝争いをする者は決まっているようなものだがな〟



 プレジアの最強が――ナイセスト・ティアルバーが待つ場所へ、俺は歩いている。



〝奴に並ぶくらいにならなければ……お前の底も知れるというわけだ、けい



 そんなことを言われたのが、随分ずいぶんと遠いことのように思える。



〝とりたてて強いわけでもなくて、通訳魔法も使えないくらい魔法にうとい……何の力もないのか・・・・・・・・、君〟



 決して平坦へいたんな道ではなかったと、思う。

 まるでこの異世界いせかいに、きらわれていたかのように。



 世界は次々俺にを浴びせかけ、異物いぶつであったこの身を何度も喉奥のどおくから吐き出そうとしてきた。



〝終わりだよ、能無しの『平民』。安心して、今……二度と義勇兵コースここへは戻れないようにしてあげるからさ――――!〟

異端いたんケイ・アマセ。風紀委員会は、貴様をこのプレジアに破滅的被害をもたらす不穏分子ふおんぶんしとして、非常に危険視し始めている〟

〝近く我々は、君をこのプレジアから永久追放することになる〟

〝私は無茶するあなた……また、止めるね。今度は本気の本気で〟

〝人間をめないでください、ケイ・アマセ。私達は貴方の道具でも駒でも養分でもありません〟

〝無駄に波風立ててないで逃げろバカ野郎が。テメェがもう少し物分かりよくあたま低くしてりゃ、そもそもこんな騒動にはなってねぇっつってんだ〟

〝あんたに――復讐ふくしゅうなんてさせないっ!〟



 力を求めれば求めるほど、世界は俺を抑止よくしし続けた。

 出来るはずが無いと何度もさげすまれ、レッテルをられ、止められてきた。



 だけど。



〝もう容赦ようしゃはしない。叩きつぶしてやるよ。お前達、風紀委員会を〟



 俺は、この歩みを誰にも止めさせなかった。



〝この――――――最底辺の無能屑くず『平民』がァァァッッ!!!!〟

〝……ない〟

〝あ、新しい魔法っ!? そんなの、ヴィエルナちゃんの時は使って――〟

〝殺してやる殺してやるぞアマセェッッ!!!思い知れ思い知れ貴族とカス共の天と地の差をそのふざけた態度の隅々にまで叩き付けてやるアアアァァァァァ――――――――!!!〟

〝まいった〟



 今、誰一人としてこの歩みにかせを付ける者はいない。



〝殺す〟



 俺は何の力も持たなかったあの日と同じ目的へ、今も変わらず歩き続けている。



 スペースへ入る。

 定位置に着く。



「――――――――――」

「――――――――――」



 最強に、向かい合う。



〝勝てるとは思っていないがな〟

〝確かに貴方は、グレーローブのヴィエルナ・キースといい勝負をしたかもしれません。でもその強さの延長線えんちょうせん上に、ナイセスト・ティアルバーを考えてはいけません〟

〝……私、やっぱり君はナイセストに、勝てないと思う〟

〝ティアルバーさんと、戦うだって? 不敬ふけいも行き着けば死罪しざいだぞ、貴様〟

〝お前さんがティアルバーに勝てる道理なんぞ一ミリたりともねぇって言ってんだよ〟



 対峙たいじする紅白こうはく

 どちらともなく吹き荒れた魔波まはが、殺気となって顔を打つ。



 言葉を交わしたことも無く、たがいの事情も知り得ない。

 戦う理由に必然ひつぜんは無く、勝敗にさえ興味は無い。



 この戦いの果てにあるのは、ただ――――



〝魔王になるんだ、圭〟



 魔王へ踏み出す、一歩だけだ。















「――――では、決勝戦――――――始めろ!」

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