一瞬――――最強を超えろ



 白が目を見開く。

 俺も目を見開いた。

 死を――三撃目を止めていたのは、俺の手に握られた俺の剣。



 止まるな。



 からの右手を背後に振り上げる。

 まるで、背の剣帯けんたいから抜剣ばっけんするかのように――もう一振りの氷剣が右手に現れ、敵を打つ――――!



「っ!」



 呆然ぼうぜんとしていた左腕をひるがえし――ナイセストは剣を受けた。

 初めて、防御ぼうぎょの動きを見せた。



 止まるな。



 止まるな止まるな、



「止まるなァ――――――ッ!!!!」



 誰かの声。



 と共に、俺は弾けるように――――剣光けんこうを、ナイセストに放った。



「――ハハハハハハっ、ハハハハハ――――ハァッ!!」



 哄笑こうしょう



 ナイセストはその一撃を、事も無げに打ち返し――――赤黒い紋様もんようを光らせ、顔に血管を浮かばせて、これまでよりも重い一撃をり出してくる――――!



 剣戟けんげきだけが、ただ響く。


 二合にごう、五合、十一合。



 氷剣ひょうけんが折れる。


 錬成れんせい



 十五合、十八合、二十一合。


           鮮血せんけつ



 後退はない。


           二十六合、三十七合、四十三合。



 前進も無い。


           折れる。



 その場所が、互いにとって最善さいぜんの、相手をたおせる場所。


           錬成。



 魔力をゼロにした。


           四十九合、五十二合、六十四合、



 体力をゼロにした。


           六十九合、七十四合、八十合、



 奴の力は、考える限りのさくで下げに下げ尽くした。



 あとはただ、剣を振れ。


           八十六合、九十一合、九十八合、



 そして超えろ。



 一瞬でいい。



 たった一瞬だけ、最強を超えろ――――!!




◆     ◆




「止まるなァ――――――ッ!!!!」



 一際ひときわ大きな声が会場を貫く。

 声の主は、演習えんしゅうスペースに飛び込まんばかりの勢いで障壁しょうへきに張り付いた少年――テインツ・オーダーガード。



「お――おいおいおいっ」

「危ないよテインツ、せめてもう少し離れ――」



ビージとチェニクはあわてて彼を引きがそうと肩をつかみ――その手を振り払われた。



「っ、」

「……テインツ、おめえ、」



 あまりにも切迫せっぱくした表情をしている友人に、困惑こんわくの声をらした。



「――――――ッッッ」



 二人の声に、テインツは応じない。

 応じず、ただすがるような表情で、今にも決壊しそうな激情を乗せ、彼は、



「――がんばれっ。がんばれアマセェッッ!!!!」

『!!?』



 ビージらが予想だにしなかった言葉を、会場中にとどろかせた。



「頼むッ……勝てッ!! ティアルバーさんを……プレジアを変えろ・・・ッッ!!!」



 その声に驚いたのは、二人だけではない。

 スペースを囲っていた風紀委員。

 観覧席にいた貴族、「平民」。

 教師きょうしじん

 食堂で試合を見守るマリスタ達。

 映像を見守るプレジアの者達、すべてが聞いた。



 異端いたんを心から応援する、貴族の声を。



 そして義勇兵コースの貴族たちは知っている。

 ケイ・アマセが、テインツ・オーダーガードの剣で戦っていることを。



 ゆえに、残らず悟った。

 ケイ・アマセが今、テインツの願いを背負っている・・・・・・ことを。



「…………やれ、」

「ロ――ロハザー?」

「やってやれ、アマセ――――そのままブチのめしちまえッッ!!」

『!!!!?』



 瞠目どうもくする食堂の面々。

 マリスタがこられず笑い、その破顔はがんのまま映像へを視線を戻した。



「いけぇっっっっ!!!! がんばれぇぇぇケイィぃッッッ!!!!!」

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