不退――――たとえ幾百壊されようと



 飛び散る魔光まこうの中魔力をにぎつぶし、剣の形へと錬鉄れんてつする。

 花色が乱れ凍結とうけつし、俺が唯一知る剣を模倣もほうしていく。



 乱渦らんかの中央に宝玉ほうぎょく片刃かたばの剣。

 その、



「ッッッ!!!」

「――――ぁあ、」



 一対いっついの、ひょう双剣そうけん



「あああアアァァァ――――――ッッッ!!!」



 迫り来た十五じゅうごせん斬撃ざんげき片端かたはしから打ち返す。



 互い押し戻される体。

 氷光ひょうこうの中、かち合う目と目。



「……俺と同じ……!!」



 その漆黒しっこくが、これまでにない興奮をたたえた。



猿真似さるまねが――――どこまでもッッ!!!」

「ッ!!」



 ナイセストに合わせ地をる。

 眼前がんぜんに、幾百いくひゃくもの魔光まこうが散る。

 息を吹き返したかのようにおどる、しかし確実にキレを失いつつある双剣の剣光を、手にした双剣でただ我武がむ者羅しゃらに弾き返していく。



 打つ。

     風切かざきり。

 打つ。

     火花。

 打つ。

     鋼音。

 打つ。



 つい昨日のことだ。

 どの感触も、鮮明せんめいに覚えている――――!!



「――ッ!!」

「っ、!」



 切っ先がほおぜる。

 鮮血せんけつが飛び、魔光まこうに消えていく。



 互い、一歩も引かずかなでる剣戟けんげき

 しかし押されているのは――俺だった。



「ッ……!」



 剣が肩をく。

 小さく、でも確実に裂傷れっしょうが増えていく。

 


 ――当然。

 これが当然だ。



 魔力も体力も尽きた最強と、余力よりょくを残した最弱と。

 どちらが優勢ゆうせいかなど、わざわざ語るべくもない。



 加え、奴の持つ鎌剣コピシュくせのある太刀たちすじ

 こちらの剣をからめ取り、へびのようにすべせまる。そんな攻撃を受けるのはこれが初めてなのだ。



 ゆえ劣勢れっせい必然ひつぜん

 どれだけのさくろうしても、俺の実力はナイセスト・ティアルバーに遠くおよばない事実は変わらない。

 だが。



ことなる実力を持った二人が揺れ動く・・・・、決着はその狭間はざまにある〟



 そうさ。

 決着は実力と、「ゆらぎ」の狭間はざまにある。

 そう信じている。



 だから。



「ッッ!!!」

「ハッ――もろいな!!」



 左の氷剣ひょうけんくだける。

 冷たい破片の向こうから、目に狂気きょうきを宿す白が放つ死の一閃いっせん

 固まる眼球。止まる呼吸。

 勝鬨かちどきのように鳴りせま風切かざきおん



〝お前はどうしたい。圭〟



 ――――退け。

 本能がそう告げてくる。

 退いたところで致命傷ちめいしょう

 だが退かねば待つのは死だ。

 退けばお前は、確実にこの一瞬を生き残ることが出来る――――



〝ナイセスト・ティアルバーを倒してくれッ……!!!!〟









 ああ。



 退けない。









「――――!!」



 ナイセストの気息きそく



 必殺の剣閃けんせんを弾き返したもう一振りの氷剣がひびれ、音も無く崩れ落ちる。

 視界には更に迫る三撃目の死。



 避けられぬ。

 退きの選択肢せんたくしは死んだ。

 だったら。



〝ケイ。お願い〟



 だったら、進むしかない。



「ッ――――――!!!」



 無手むてを構える。

 何もない空間を掴むように手を動かし、そこに――――剣をイメージする。



 神より速く。

 あらゆる行程こうていを飛び越えて、今この手に氷剣を錬成れんせいする――――!!



「ッ――!?」



 ――――テインツの剣が、死を止めた。

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