12



 り返すパールゥ。ギリートは明後日あさっての方向に視線を投げ、言葉にならない声をらしながら言葉を選び、桃色に向き直った。



「彼、ここに入学してきた当初から色々といわきだったんだろ? 素性すじょうは知れないし、魔法の知識も力もまったくのゼロ。その上風紀委員ふうきいいんとは何度も対立して、貴族と『平民』の争いの火付け役になったとか。しかも性格も良くはなくて、うとまれることも多かったそうじゃないか」

「アマセ君は性格悪くなんか――!」

「そこだよ」

「――そこ?」

「そう。僕がここに来たのはアルテアスさんとハイエイト君の戦いからだったけど、…………誰一人からも、アマセ君への陰口かげぐちなんて聞こえてこなかった。貴族からも、それ以外からも。今までもそうだったのかい? ……それとも、みんなが今日の戦いを見てから?」

「…………それは、ええと」



 パールゥが言葉にまる。

 圭への悪口あっこう。それはパールゥの周りに、いて捨てるほどにありふれていたものだったから。



悪口わるくちが……なくなった? いつから?)



 思い返してみれば、確かにパールゥは今日、圭への野次やじなどを耳にしたことがないように思えた。



 その変化が起きたのは、今日。

 であれば、答えは一つ。



 しかしそこに至るまでの沈黙ちんもくは、



「――ああ。ありがとう、もう大丈夫だよ」



 少女の無知を知らせるには、十分過ぎる時間で。



「君は盲目彼が好きなんだね」

「――っ!?」

「けなしてるんじゃないよ。『好き』は、人をけ値なしに信用するのに十分すぎる理由さ。ただそれは、今僕が欲してる情報じゃないってだけ」

「……あなたが欲してる情報?」



 パールゥが不快感を顔ににじませ、詰問きつもん口調で問う。

 ホワイトローブの少年は一瞬言葉にまったが――やがて諦めたようにため息をつき、小さく苦笑した。



「嫌な気持にさせちゃったみたいだし、少しだけ教えるね。……僕は確かめたいんだ。彼がどういう人間か。どんな力を持ってるのか」

「…………どうしてですか?」

「んー。単純たんじゅん興味きょうみかな」

「きょ、興味って……」

「さてと。となると……この学校だと、誰が一番彼のことを知ってるのかな?」

「そ……そんなの、知りま」

「あ、やっぱりアルテアスさんかな。いつでも一緒にいるみたいだしね」

「!!!」

「うん、そっちを当たってみようかな。それじゃあね、フォンさん。お大事に」



 パールゥの心を見透みすかしたその口で「お前は圭の理解者ではない」と言い捨て、ホワイトローブの少年は去っていく。

 少女はローブのすそにぎめ、悔しそうにうつむいた。

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