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◆     ◆




 あれらが、ずっと目蓋まぶたに残っている。



「…………チッ」



 自分がどうしてあの場に行こうと思ったのか、いまもって良く解っていない。

 少し考えれば、奴等やつらが俺に託そうとする・・・・・・ことくらい、わかって然るべきだったろう、間抜まぬけ。



 一切合切いっさいがっさい、俺に関係は無い。

 あれは奴らの手荷物てにもつであって、俺のかせでも何でもないのだ。



〝ケイ。お願い・・・



 そもそも勝手が過ぎる。

 奴らは実に簡単かんたんに、自分の野望や信念を誰かにたくそうとする。

 他人を頼みにしようととする。

 戦いの場では、人はいつもひとりだ。

 勝つときも負けるときも、一人ですべてを受け止めて前に進む。



 重く、軽い、そんな場所。



 そこに、どうして他人の思いまで持ち込まなければならないのか。



 俺は俺の為だけに戦う。

 自分の思いは自分だけで背負う。



 お前達の思いを、俺に負わせるな。



「――――……」



 すっかり見慣みなれた床面ゆかめんを見る。

 実技試験の行われる会場の一つ上、第二十三そう演習スペース。

 手を上げると、着けた黒革手袋レザーグローブが目に入ってくる。

 着けた当初と比べると、随分ずいぶんかわ馴染なじんできた。



 集中しろ、天瀬圭あませけい



「……戦士の抜剣アルス・クルギア



 手に、氷雪ひょうせつが集う。

 寒色かんしょく魔力まりょくが氷を生み出し弾けさせ、それらが結合し――いつか本で見た、基本形の両刃りょうばつるぎもどき・・・の形を成した。



「…………」



 ……錬成れんせい時間は六秒フラット。

 いつかと比べ、形はまあ及第点きゅうだいてん

 しかし、硬度こうどは――



 ――脳裏のうりに、ヴィエルナの有様・・が浮かぶ。



 ヴィエルナの身体を断ち切った二振ふたふりのやみ

 ナイセスト・ティアルバーが奥の手のように・・・・・・・繰り出した、所有属性武器エトス・ディミ



 あそこまで切羽詰まって出したということは、あの双剣そうけんは奴にとって「隠し玉」であった可能性は高い。咄嗟とっさに取り出した不慣ふなれな武器だと仮定するには、双剣あれあまりにマニアック過ぎる。

 そうでなくとも魔術師まじゅつしは、余程よほど信用に値する人物でもない限り、安易あんいに手の内をさらさないと言われている。

 戦いをほこり、生業なりわいにする者にとって、それらはまさしく商売道具。であれば、滅多めったなことでは見せようとしないはずだ。



「……あれが最後さいごとりでか」

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