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「冷静というか……騒ぐ気になれないんだよね、だって騒いだところでキースさんは回復しないだろ? 薄情はくじょうに思えるかもしれないけど」

『…………』



 四つの目が、ホワイトローブに注がれる。

 少年はポリポリと頭をかいた。



「……そんな目で見られると、弱るな。やっぱ薄情か、ごめん。君たちの気分を悪くしようってんじゃないんだけど、なんか。駄目だな、どうやら僕はこの場に長居ながいしない方がいいらしい。君の友人も無事に意識を取り戻して、出ていったことだしね。そろそろお暇するよ――フォンさんは大丈夫? 何なら、他の医療スタッフを呼んでこようか」

「あ……いえ、大丈夫です。ちょっと血を見て、気分が悪くなっただけですから」

「そっか。決して見て気持ちのいいものではないからね、ああいうのは……さてと。まだ終わってないブロックの試合でも観に行ってみようかな。君はどうするの?」

「……それは『言え』という指示ですか?」

「まさか。雑談ざつだん程度ていどに聞いただけ」

「ではお先に、失礼します」



 ホワイトローブを追い越し、足早に去っていく少年。



 会長は「ふう」と大きく息を吐いた。



「……僕って、ホント一部の人には蛇蝎だかつごとく嫌われるんだよね。とある報道委員にも死ぬほど嫌われててさ。コーミレイっていう人なんだけど」

「…………えっ。あ、はい。そう、なんですね」

「……関係なかったね。………………フォンさんは、明日も第二ブロックで試合を見るの?」

「え――はい。もちろん」

「余計なお世話かもしれないけど、やめておいた方がいいんじゃないかな。見るの」

「……どうしてですか?」

「明日の試合は、今日以上に血生臭ちなまぐさいものになる。そういう予感がしてね」

「…………今日以上って、どういうことですか」

「もっと体調悪くなりそうだから、言わないけど。要するに、アマセ君がボロ負け――ティアルバー君が圧勝するってことさ」

「そんなのっ、やってみないと――――」

「分かるよ。明日はティアルバー君の圧勝・・だ。白兵はくへい魔法術まほうじゅつ判断はんだん分析ぶんせき回避かいひも、どれをとってもティアルバー君が勝っている。どうやって勝てるっていうのさ」

「これまでもそうでした」

「……これまでも?」



 平静へいせいなホワイトローブの目を、パールゥがキッと見返す。



「アマセ君が実力で優位に立ってた戦いなんて、これまでも一回だってなかったんです。それでもアマセ君は勝ってきた。だから私は……彼を信じてるんです」

「信じてる、ね……まぁ確かにそうかな。偶然に実技試験じつぎしけんを二回も連続で勝ち上がれるわけないし……参考までに聞きたいんだけど、彼はどうやって勝ったの?」

「え?」

「これまでも勝ってきた、って言ったよね。今日聞いて、あと見てる限りだと、彼の勝ち方は奇襲きしゅう、そして降参こうさん……なんかこう、どつき合いで真正面から勝ってる戦いが一つもないというか。ハイエイト君との勝負も、ち合いでは押されてたし」

「そ、それはそうかもしれませんけど、でも」

「実力はあるの?」

「あ――ないと、勝ち残ってないと思います」

「知らないなら知らないでいいんだってば。でも、考えてみたら君が知ってるわけないか。戦いニガテなんだもんね」

「ッ――私は!」



 「知らない」。

 そう言われたことに、パールゥは自分でも意外なほど気持ちがせり上がった。



「わっ、ご、ごめん……また僕気にさわること言ったかな」

「っ……ごめんなさい。でも私は、とにかく――アマセ君を信じているんです。戦う以上、彼はティアルバーさんと戦えるし、勝ちにいく。勝てるんです」

「…………信じる、かぁ。みんな、そんな気持ちでいるってことなのかな」

「――みんな?」

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