傍観――――貴族という異世界

「止めることは出来ません」

「こ――」

実技じつぎ試験しけんのルールはルールである以上に、プレジア外部の方に向けての、義勇兵ぎゆうへいだんアルクスの品質ひんしつ保証ほしょうという側面も持っています。私情でプレジアの価値そのものをおとしめることは出来ません。それに何より――――この試験が死が付いて回るものであることは、彼らも先刻せんこく承知しょうちのこと。ますますもって止めるわけにはいかない」

「校長!」

呵々かか……しかし、何よな。許可が出なければ、守りたい教え子を助けに行くことも出来ん……何においてもまずは自分の職、立場というわけだ。人命より保身ほしんを優先していると公言しているようなものではないか。それをよくもまあ善人ぶって『助けに行かないのですか』などと……恥というものを知らぬようだ」

「ッ…………」

「何かに縛られ生きる者のおろかさよ」



 教師たちが拳を握り締める。

 だが、クリクターは顔色一つ変えずディルスに切り返す。



「ところでディルス殿どのあれ・・は一体どういうおつもりなのですか?」

「……何かな? クリクター・オース校長」

「まさか、はぐらかしでもしたおつもり、なのですか。……ナイセスト・ティアルバー君の身体、見えぬわけではないでしょう」



 ナイセストの身体には、赤黒い紋様もんようが浮き出ている。

 遠目から見ると、それらは魔法陣まほうじんを構成する呪文ロゴスのようでいて、何とも読み取ることの出来ないただの紋様もんようだ。

 いくさ化粧げしょう、またはずみのようにさえ見えるそれは、ナイセストの顔、髪、そして服やローブの上にさえも浮き出、ナイセストの身体を黒紅くろべにふち魔力まりょくを形成している。



 そう、魔力をだ。



「あれは精痕スティオンですね、ディルス殿どの。体にきざみ込んだ魔術まじゅつが、刻まれた本人の命を犠牲に・・・・・魔力まりょくを生み出し、精神が壊れるまで戦いを続けさせることが出来る――――禁術きんじゅつ

「き――――禁術?」

「ほお。はるか昔に禁術指定された魔術まじゅつであるのに、よく知っている」

伊達だて貴方あなた以上生きていませんよ、ディルス殿。それで、何か弁解べんかいはおありですかな?」

「何が言いたい。御託は要らぬ、簡潔かんけつに述べよ」

「何故未来ある子どもにあんなものを?」

「――――呵々かか呵々々々々々々々々カカカカカカカカカ!…………未来ある子供? そう来たか、老獪ろうかい。呵々々。だが、まったく解せぬことよ…………そも、この私に術を禁ずる禁術くとはどういうつもり・・・・・・・なのだ?」

「……どういうつもり、ですって?」

「言ってみよ。私は、そしてあれ・・は誰なのだ、凡骨ぼんこつよ。…………我々は四大よんだい貴族きぞくいち、ティアルバー。よもや忘れたわけではあるまいな、クリクター・・・・・

「…………」

「禁術だと? それはお前たち凡夫ぼんぷ共にとって禁じられた魔術であるというだけだ。凡夫に定めた禁則きんそくが我々をしばる道理がどこにある?」

「ティ――――ティアルバーさん、あなたはいった――」



 教師の一人の叫びを手でせいし、ディルスは続ける。



「世界りっされるのは貴様等きさまら十把じっぱ一絡ひとからげの役目だ。世界律すべき我々に、貴様等の異世界いせかいめるな、莫迦ばか共が」

「……………………」

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