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「楽屋での約束を覚えてるか?」

「……え? 楽屋の――」



学祭がくさい三日目の、最後の夜。私とデートして、ケイ君〟



「あ。ぅ……も、もちろん――」

「俺が作った借りだ、俺も確かに覚えてる――――もう一つだけ、お前に借りを作っても構わないか」

「え?」

「俺の我儘わがままにひとつ、付き合ってもらっても構わないか」



 ポカンとしたパールゥが俺の視線を受け――――やがてやわらかく微笑ほほえんだ。



「もちろん。あなたの頼みなら私は何だって、何度だって叶えてあげたいもの。だから私の気持ちなんて気にしないで」

「……ありがとう。それじゃ、もう一度だけお前を利用させてもらう。……パールゥ」



 少しだけ、顔を近付ける。

 表情に小さく緊張をにじませたパールゥが「はい」と小声で応じる。



「約束だ。ギリートに勝ったら・・・・・・・・・、俺はお前に口付けをする」

「――――――え?」

『神の裁きを受けよ!!』



 ロハザーの、もといキュロスの声が舞台ぶたい木霊こだまする。

 もうじき俺達の出番だ。



「……約束したぞ。さあ出よう」

「え、あ。うん」



 生返事のパールゥを背に気持ちを入れ直し、呪いの程度を確かめる。

 まだそううずいてはいないが、治まってもいない。



 ラブジュエリーファイトの時と同じく、これで俺は「勝てばキスする」身にもなった。



 環境条件は、これであのときとほぼ同じ。

 後は本当に、天に祈るだけだ。




◆     ◆




           希望の灯は、きっとま    た灯る。

       ここで火種を、          絶やすわけにはいかな   い!!



 ――――神ゼタンが創り出した機神きしん、ディオデラに成す術なく敗走する騎士クローネ。

 その背に投げかけられた魔女まじょタタリタの言葉。

 鬼気ききせまるとはこのこと、と言わんばかりのマリスタの舌鋒ぜっぽう。そしてそれを更なる気迫と無感動なたけびで飲み込む――会場をおおい尽くさん大きさで舞台ぶたい投影とうえいされた、ビージ演じる機神ディオデラ。



 観客の熱気に後押しされた俳優陣はいゆうじんの熱演が、舞台のボルテージを更に押し上げていく。



「……すごいわねぇ。これ」



 そう小声で隣にささやいたのは、今しがた闇に消えた赤毛の少女と同じ、深紅しんくの長髪を一つにまとめた淑女しゅくじょ、エマ・アルテアス。



シャノリア・ディノバーツと同じく舞台ぶたい芸術げいじゅつのフリークである彼女も、粗削あらけずりだが圧倒的な熱量を伝えてくる学生たちの舞台に、思わず簡単をらしたのだ。

 それを受けた相手は、当然――



(……プレジアの理事長りじちょうけん学長代理がくちょうだいり……マリスタのお父さん、オーウェン・アルテアス。だい魔法祭まほうさいを、私達の劇を終わらせようとした人……)



 そう遠くない席に座った大物に、リア・テイルハートが目を細める。

 開演から間もなく、遅れて関係者席へとやって来た学長の姿に、周囲の生徒達はいやうえにも緊張と――何より警戒を高めていた。



(娘の活躍を見に来た、ってところか……本当にそれだけなのか?)

(でも、今の所監視してるような素振りもないね……)



 小声で交わすテインツとチェニク。

 先のエマの声にもオーウェンは応じず、ただただ舞台を見つめ続けている。

 やがて舞台にまた明かりがともり、場面は切り替わる。



 オーウェンの無言の理由。

 エマには、大体の見当がついていた。



「――――俺達に何が出来るよ。何が残ってるよ、あぁ?――――犬死いぬじにする未来だけじゃねぇかよッッ!!!」

「…………そうだ。きっと神も同じように考えてるだろう。だから、奴らは必ず『詰め』の先手せんてを、打ってくるはずだ」

「……詰めの先手?」

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