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「……お前で終わりじゃないんだよ。俺はまだまだ進まなきゃならない。なのにお前は遊興ゆうきょうなどで俺の行く手を立ちふさぐ。単なる興味で引っき回す!! 『もうよいいた』は俺の台詞せりふだッ!!!」



 額を伝う血。

 その血が視界で切っ先と交わり、ギリートに触れる。



 素で目を見張るギリートが、ただひたすらに爽快そうかいだった。



「――その暇潰ひまつぶしを引っ込めろ神。せめて打ち破られるなら、せいぜい背高く俺の前にそびえてくらいみせてみろッッ!!!」

「――――――ふ、は……はは、ハハハハハハハハ――――――!!!!」



 その整った相貌そうぼうを、狂気に崩し。



 ギリート・イグニトリオは、首をよじって笑い始めた。



「はァ――――そうか、そうかそうか! それがお前の源泉げんせんか!――――だが遊興ゆうきょうの締めに一つだけ聞かせろ、失敗作。お前の源泉が我等への復讐であるならば……その復讐の生を共にしている有象無象うぞうむぞうなど取るに足らぬ存在のはずだ」

「その通りだ」

「ならば何故――――お前は今その有象無象の為に、我等襲撃者・・・と戦っているというのだ?」



 ――――――。



〝お前は、プレジアを守るために動いてるのか?〟



 ギリートへ向けた言葉が脳裏をよぎる。

 そう、本当にあの言葉を投げかけられるべきは俺。俺なんだ。



〝常にお前たちの喉元のどもとには私の刃が当てられていることを忘れるな〟



 知ってしまったからだと思っていた。



 自分が黙っていることで物事が悪い方向に転じていくのが解っていて、ただ傍観ぼうかんしている者などいないと。後味が悪いではないかと、そう思っていた。

 だが考えてみれば俺は――



〝だから――これきりだ。これ一度だけ――――もう一度だけ、背負ってみよう〟



もうすでに、全く関係のない事柄に、自ら関わりを持ってしまったことがある。

 


 ああ、気持ちが悪い。

 俺に俺がわからないことほど、気持ちの悪いものは無い。



〝あなたはお母さんと同じ……いいえ。お母さんよりも大きい、大きい優しさを持っている〟



 イツカのダレカがまたドコカをく。

 復讐者である俺に優しさなど不要だ。

 優しさとはこの世界に在る、命を持った「誰か」に対して抱かれるもの。

不特定多数に抱いてしまう可能性のある主観的な観念など、復讐者にとってはかせにしかならない。無駄・・でしかない。



 つまり、優しさとは。



〝そうともさ、これは無駄だ。時間の空費くうひ、存在の冒涜ぼうとく、無意味なる徒労とろう!――――これは遊興ゆうきょうだ! オレの心にただ一つ、全く無価値な火を灯す――――〟



 時間の空費。

 存在の冒涜。

 無意味なる徒労。



 矛盾むじゅんしない。

 これならば、天瀬圭は矛盾しない。



「――――理由なんてたった一つだ、神よ。これが俺の遊興だから・・・・・・・・・・だ」

「――――――ッハハッ!!!」

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