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 体をシャノリアから背けて目を閉じ、急にき上がる煩悩ぼんのうに似たものを闇に沈める。

 誰かの温かさを、鼓動こどうの心地よさを、安らぎを求める信号を、本能が求めている。



 ふざけるな。

 呪いにあかせて、そんなことが出来るか――――



「な……何、どうしたのよケイ。呪いの症状しょうじょうなの?」

「そ――そうだ。大丈夫、少し――――一人にして、もらえれば」

「…………本当に、大丈夫なのね?」

「ああ。悪い、心配かける…………」

「なんでもないから、こんなこと。……客出しが終わったら、また様子を見に来るから。あなたはそれまで、横になってなさい。少しでも休んで」

「っ、」



 俺の頭を優しくで、シャノリアの気配が遠ざかっていく。

 座り込んだ姿勢から、俺の身体は何かを求めるように、ゴロリと床に倒れた。



 違う。



 これまでの呪いのうずき方とは、明らかに違う。



 これまでは痛覚つうかくうったえかけてくるばかりだった。

 文字通りの「痛みの呪い」だったのだ。

 それが今は、どうしたことか――――胸がじっとしていられない程にざわめき、むしっても収まらない奥の方を、大量の羽毛でで回されているかのように落ち着かない。



 湿った呼吸が、俺の口かられている。

 体温も心なしか高く、冷たい床が刃物のように肌に痛い。

 体中が敏感びんかんになっているのだと、ようやく知れた。



「っ……、はぁっ……!」



 ――耐えろ。

 今は耐えるしかない。

 耐えるより他、ようがない――――












「アマセ君」












 ――――今一番、聞こえてはいけない声がした。



「近付くな、パールゥっ。!」



 目を閉じる。

 体をくの字に曲げる。

 後頭部を抱えるようにして耳をふさぐ。

 わざとらしくせきをする。

 パールゥ・フォンは、俺の声に一応は動きを止めたようだった。



「だ……大丈夫? 出来ることない?」

「無い。何も無い。っだから仕事に戻れっ。まだキャクダシとやらが続いてるんだろ」

「今までと、どこか違うの? リコリス先生を呼んだり――」

「来るなって!!」



 声が近付き、自分でも驚くくらい大きな声が出た。

 パールゥが息をんだ音がした。

 その音さえ、今は鼓膜こまくを異様にふるわせる。

 くそ、ダメだ――――完全に追い払ってしまおう。



何遍なんべんも言わせんなよ馬鹿がッ! 消えろって言ってんのが聞こえ――――」

「――――――、っ?」



 ――――手に伝う、神経に直接触られたようなするどい感覚。

目の前にいるパールゥの、ひどく困惑した顔。



 言葉で、これほど苛烈かれつに拒絶したというのに――――おろかな俺の手は、いつの間にかパールゥの手を握ってしまっていた。



「――――――――馬鹿な、くそなんで、」

「――――――――――、」



 パールゥが、近付くな、

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