7

「プレジアが。国がなくなるかもしれない」



 テインツの言葉と目に、チェニクが目に宿した非難の色を変える。



「僕はこのリシディアって国に無くなって欲しくない。そんな事態を招くかもしれない争いなんて、起こさせたくない。そのためなら何だってやるつもりだ。この微力びりょくもってね」

「――ありがと、オーダーガード君」

「っっ……や、やあそれほどでも……じゃなくてっ。他に乗る人はいないのか」

「俺も」

「のった」



 ロハザーがおもむろに、ヴィエルナがちょこんと手を上げる。

 それを見たマリスタの視界のすみで、顔を見合わせて手を上げるビージとチェニク。

 マリスタはパッと顔を明るくし、「ありがとうっ」とつんのめり気味に頭を下げた。



「さあて。では壁を説明しますね」



 部屋の隅で動かなかったナタリーが重い腰を上げ、不機嫌としかとれない顔で面々の前に立つ。苦笑いするマリスタ。

 おずおずと話しかけたのはチェニクだった。



「……ど、どしたのさ。コーミレイさん」

「人殺しそうな目してるぞ、あんた……」

「……コーミレイ、さん。『壁』ってどういうこと?」

「そこに突っ込んでくる男が一人もいなくて大変残念ですねェ」



 ギロリ、と斬れそうな目つきでナタリーがチェニク、ロハザーを見た。

 二人は目を合わせなかった。



「ハァ……ええその通り、壁です。この作戦が成功するには、見るのもうんざりするような大きな大きな壁があります。一つに人数を集めること。二つに許可を取ること。三つに、アルクスでさえ誘い出せなかった襲撃者達を、まんまとおびき出す方法。四つに時間。五つに、アルクスが先に動けば作戦はパァ」

「ミもフタもねー……」

「時間。それが一番やべぇ問題だよな」

「まだ三日目の学祭は始まってもないけど、昼には僕らも劇があるからね。そしてその後は劇場の片づけまでノンストップだ。割ける時間はそう多くない」

「こうして悩んでる時間もしいな」

「だってのに、まだ三つもデケー障害があんのか……ま、しらみつぶしに提案してくしかねーだろ。やると決めた以上は。とりあえずは一つ目か」

「そうですね。一つ目については作戦内容が決まり、学校側と学祭側から許可が下りたらすぐに報道委員より告知を出します」

「報道委員はもう動いてくれることになったのか?」

「まだですが、彼らは動くでしょう。私の頼みですし、何より面白そうなことには何でも首を突っ込みたがる連中の集まりです。なんとかなります」

「どういう奴らなのさ報道委員って……」

「ともかく、報道にはすぐ動いてもらえるよう、身命をして手筈を整えます。五つの壁の内、ひとつでも当てがありそうな方はいますか?」

「一つ目はマジで徹底的てっていてきに宣伝しまくるしかねーだろ。二つ目――そもそも許可はどこまで・・・・取りに行きゃいいんだ? 学祭実行委がくさいじっこういか? それとも」

「無論、この祭りの実質の主催・責任者、学長代理サマの所までですよ」

「……詰んでね? それ。許可下りるワケ――」

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