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 人工的な光と、武骨ぶこつさを感じるつくりと色味をしているプレジアにも唯一ゆいいつ、水と緑に満ちあふれている場所がある。



 プレジア魔法まほう魔術まじゅつ学校がっこうさい上層じょうそうにある、屋上おくじょう庭園ていえんがそれだ。



 学校の廊下ろうかぜんとした質素しっそ床材ゆかざいが、そこでは整然せいぜんと並んだ小さな石畳いしだたみへと変わる。

 あざやかな色の煉瓦れんがで造られた植え込みの中には青々とした低木ていぼくしげり、青葉あおばの先には短くそろえられた芝生しばふの広場が開ける。

 その中央では、先端せんたん透明とうめい魔石ませきかせた噴水ふんすい滾々こんこんと水をき上がらせ、魔石をれた輝きに照らす。



 みず飛沫しぶきを追いかけると、見えてくるのはれる空。

 無風むふう水面みなものように静かに揺蕩たゆたうこの空は、プレジアを覆うだい障壁しょうへきを展開している魔石ませきの影響によるもの。プレジアでただ一ヶ所いっかしょだけ、壁や天井の無い大障壁を見ることが出来る。



 壁際かべぎわには背の高い木々が並木なみきみちつくり、根元では色取り取りの花が歩く者を出迎でむかえる。

 奥の方に行けば木々は姿を消し、代わりに大障壁越しに外を眺めることが出来る展望台てんぼうだいめいた場所が現れる。もっとも大障壁越しなので、景色を楽しむことはそう出来たものではないが。せいぜい風に吹かれることが出来る程度ていどである。

 点在するベンチはいつも通りほとんど埋まっていて、誰かが誰かと談笑だんしょうをしている。



 ……今一番、立ち入りたくない場所かもしれない。



「いつ来てもきれいだよね、ここ」

「そうだな」



 月並つきなみな言葉に月並みな言葉を返し、魔法陣を降りる。

 奥の展望台の一角に、掲示物けいじぶつを貼ることが出来る場所がある。

 そこに残りのポスターを貼れば、仕事は完了だ。



 おだやかににぎわう園内を、特に何を話すでもなく歩く。

 真横を歩くパールゥの表情はうかがれない。

 湿しめってしおれてしまわないよう、ポスターを持つ指を替えながら、芝生の道を進む。



 程無ほどなく、掲示板けいじばんに行き着いた。



「……いっぱいだね」

「……そうだな。はみ出てしまうが、すみにでも適当てきとうにぶら下げておくしかないだろう」

「うーん、それしかないか……どこにする?」

「と言われてもな。この辺でいいだろう」

「そ、それじゃ報道ほうどう委員いいん広報こうほうが隠れちゃうよっ」

駄目だめか」

「ダメだよ……ううん、こっちとか? あっココ絶対ダメだった」

「絶対? 何故なぜだ」

「なぜって……コレだよ。もしかしてアマセ君、『ウィザードビーツ』も知らないの……?!」

「……なんだそれ」

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