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「なんだも何も、前夜祭ぜんやさいのメインイベントだよ! 『ウィザードビーツ』、リリスティア・キスキルちゃんのライブ! プレジアのアイドルとか、歌姫うたひめって言われてるくらいの人なんだよっ」

「歌姫……悪いが聞いたこともないな」

「えぇー……ま、まあ興味のない人にとっては、そんなものなのかな……」

「そんなに有名なのか」

「もちろん。プレジアの外でも歌ってるし、卒業したら全国デビューの予定なんだって。…マリスタ達もファンなんだよ」

「お前は?」

「もちろん、好きだよ。前夜祭のライブにも行くつもり……だけど、チケットが抽選ちゅうせんだから。行けるかどうかは分からないんだけどね」

「そうか」

「きょ、興味なさそうだね」

「そうだな。ライブというものに一度も行ったことが無いのもある」

「……そう、なんだ」

「っと……よし。これなら大丈夫だろう?」



 与太話よたばなしもそこそこにポスターを貼り付け、少し離れてゆがみが無いかを確認する。

 視線を向けると、パールゥが我に返ったように目をしばたかせた。



「あ、えっと。そうだね」

「じゃあ終わりだ。戻ろう」



 掲示板に背を向ける。

 仕事が終わった以上、ここにはもう用もない。

 転移てんい魔法まほうじんは植え込みに隠れて見えないが……なんだか、みょうに遠い気が、



 ローブのすそを、引っ張られる感覚。



「……アマセ君。こっち、通らない?」



 振り返ると、少しうつむきがちにわき並木なみきみちを指差すパールゥ。

 少し遠回りな道だ。



「………………」



 ……取りめもない会話のおかげか、頭は先より幾分いくぶん冷静れいせい

 今度こそ・・・・、そんな回り道をしてやる道理はない。



「急がないといけないだろ。遊んでいるひまは――」

「あっち。見て」



 パールゥが、俺の肩越かたごしに目の前の道へと目配せする。

 どうにか理由を付けて回り道をしたいようだが、俺にそんな理由は何も――――



 ――――不用意に目を向けるんじゃなかった。



 目線の先。低木ていぼく高木こうぼくが並び、人目に付きにくいと思われる木陰こかげ



 ひとつ間違えば、こうやって通りすがりに十分見えてしまう場所で――――密着みっちゃくと言えるほど近しい距離でその男は、その女の両肩に手を置き、二人は、



 二人は――――一体何をしていやがる、バカップルめ。



「っ……わかった、そっちに行こう」

「う、うん……っ」



 二人、あわてて脇道わきみちへ移動する。



 決定的なものが見えたわけじゃない。

 女の方も男の背で隠れて見えなかったし、俺達はただ顔をかたむけた男女を見ただけで、そもそも奴らはそう――ただ少し、



〝――ごめんなさい、圭。ごめんなさい――――〟



 少し、口付けをしていただけじゃないか。



 …………誰に何を言いわけしてるんだ、俺は。聞き苦しい。

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