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「…………す、すごかったね。私、ちょっとその……音、聞こえちゃったかも」

「言わなくていいからっ。いいから行くぞ」



 パールゥの方を見ず歩き、――奴らが居るであろう、木の裏を通り過ぎる。パールゥも俺の後ろで、そこをけ足で通り過ぎたようだ。

 自然、移動速度は落ち、俺とパールゥはまた足並あしなみをそろえて歩き始める。



 顔が見れない。

 無言でいるのが、こうもたまれない。



 家、ないしは他人がいない条件じょうけんでやれ、というのだ。



 どうしてくれる、この空気。



「どうしてここ、こんなにカップルの人が多いか知ってる? アマセ君」

「…………ん、んん? なんて?」

「もう。動揺どうようしすぎだよ」

「い、痛みの呪いのせいだ」

「ふふ。――ここね。さっきの展望台てんぼうだいのところで、魔動石まどうせきが見られるの」

「まどうせき――ああ、魔動石。このプレジアの土台にもなっている、魔力を通すことで効果を発動する石のことか?」

「知ってるよね、やっぱ。――じゃあさ。その魔動石が、原動力になってる魔石ませきを輝かせることは知ってる?」

魔石ませきを輝かせる?」

「そう。あんな風に」



 パールゥが、ちょうど並木道なみきみち途切とぎれた先に見えた噴水ふんすいへ視線を向ける。

 噴水のいただきには、透明な輝きに満ちた魔石が浮いている。



「魔石って、魔力を通すと光を出すものがたくさんあるでしょ? 魔動石は、その魔石の光を増幅ぞうふくさせるんだって」

「光を増幅……」

「うん。そのすごく綺麗きれいな魔石が、さっき行った展望台てんぼうだいからだとすごく近くから見えるらしいの。魔動石と一緒に」

「『らしい』って。お前はずっとプレジアに居るんだろう? 見たことがないのか」

「うん、まだ。――その魔石と魔動石の輝きには、あるうわさがあってね」



 パールゥが俺を見た。



 いやな予感がしたが、おそい。



 そうとも。

 どうもお前は愛恋あいこいに遅過ぎる、天瀬あませけい



「その光の中で結ばれた二人は、ずっと一緒に、幸せにいられるんだって」



 …………………………勘弁かんべんしろ。

 なんだって、そんな、大体、なんでして。



 なんてベタな。



「…………」



 体温が下がるのを感じる。

 どうやら、その手の話は……本当に、俺の中で下らないことのようだ。



 ホッとする。

 俺の心も、ちゃんとがることはある。

 かなり危うくはあるが、一応俺は俺の心を信用していいらしい。



「下らない」

「え、」

「下らなさ過ぎる。迷信めいしんにしても、もっとマシな作り話をするべきだったな、その話を最初に作った奴は」

「――――」

成程なるほど。とするとここで見たそういう・・・・奴らは皆、揃いも揃ってその迷信を馬鹿ばか正直しょうじきに信じてせっせとはげんでいるわけか。頭が下がるな。付き合ってられない」

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