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 知らずとが舌鋒ぜっぽうえておさめず、出入り口へと歩く。

 付いてこないパールゥを敢えて気にかけず、転移てんい魔法陣まほうじんを発動させる。

 世界は、俺一人になった。



 ……少なくとも、あの言葉でパールゥが俺に更なる熱を上げることはないだろう。

 ムードも雰囲気ふんいきも何もない。当然だ、俺はあいつとデートをしに来た訳じゃない。仕事をしに来ただけなのだから。



 これでいい。



 ケイ・アマセは不愛想ぶあいそうで素っ気なくて、誰とわかり合おうともしない復讐ふくしゅうしゃ

 この異世界いせかい根付ねづき、一つの生命として学び、営み、愛し合い、育て――そして死んでいく者達とは全く異なる、輪廻りんねを外れた命なのだ。



 だから、そうることを忘れるな、おろか者。







「……でもね。たとえ迷信だって、うそだとわかってたって。それにすがってでも、あなたと一緒にいたいって思う人もいるんだよ。ケイ君・・・




◆     ◆




「あら。お仕事は終わったの?」

「……パーチェ先生」



 転移てんい魔法陣まほうじん魔波まはかれ、真正面に現れたのは魔女まじょリセル。

 猫をかぶっている状態にしてはめずらしく、静かな表情だった。



「探してたの。仕事が終わったなら付き合いなさいな」

「何の用事だ?」

「あ……リコリス先生?」

「もう、言わなくってもわかってるでしょう」



 パールゥが転移魔法陣から現れる。

 しかし、リセルは彼女に目もくれない。



「『定期ていき健診けんしん』よ。『痛みの呪い』の」

「――何?」

「あ……そういうこと。大丈夫だよ、アマセ君。ナタリーにも先生にも、私から言っておくから」

「あ、ああ」

「ありがとう。じゃあ行きましょういいからついてこいアマセ君

「…………久しぶりだな。それ・・を聞くのも」

「?」

「悪いな。後を頼んだ、パールゥ」



 言い残し、リセルの後についていく。

 医務いむしつに着くまでのしばらくの間、リセルは終始しゅうし無言むごんだった。



 ……二人の時は、いつも必要以上にやかましいくせに。

 一体なんだというんだ、調子のくるう。



 医務室に入り、扉を閉める。

 魔女が猫を取り払った・・・・・



げ」

「検査は昨日したばかり・・・・・・・じゃないか。何か妙なことでもしようというんじゃ、」

「検査をするのは本当だ。もう一度確認したいことがある。早く脱げ」

「?……わかった。全裸ぜんらか?」

「上半身だけでいい」

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