第52話 線引きを越え

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「ふ……風紀委員長ふうきいいんちょうを、決める……」

「うん。今日中に。『無血むけつ完勝かんしょう友情ゆうじょう大作戦だいさくせん』、決行前に」

「き、キース。いくらなんでもそりゃ無理があるってもん――」

「これまでも、ずっと議題、上がってきてたでしょ」

「そうだよ。ずっと上がってきてて、でも結論が出ないから保留ほりゅうになったのさ。学祭警備がくさいけいび段取だんどりとかで、忙しかったのもあったけど……これまで結論が出なかったものを急に」

「でも、それじゃいけないよね。いつまでも」

「そ、そうだけど……」

「当ては?」



 チェニクの言葉をさえぎり、ロハザーが言う。

 ヴィエルナは答えず、ただロハザーの目を見た。

 返事を催促さいそくすることなく、ロハザーが小さく何度もうなずく。



「なるほど。何かしら当てはある・・・・・みたいだな」

「…………うん」

「うし、先に行けよヴィエルナ。俺らは他のメンツに連絡取るぞ」

「…………そうだな。そうだ。そうしよう」

「ビージ、きみ――」

「学長まで上げなきゃいけねえ問題だ。立場あるモンがいた方がいいに決まってる」

「でも、慎重に選ばないといけないよ。万一にも――」

「だからそれをみんなで話すんだろっ。集めなきゃ話になんねーよ、ホラさっさとかなめの御声ネベンス・ポートやるぞロハザー! テインツも!」

「おうっ」

「あ、ああ……」



 立場ある者は必要。

 作戦実行のために。



 その一点のみで、テインツはこの話に乗ることにした。




◆     ◆




薄暗い中に、ほのかな魔石の光がにじむ風紀委員室ふうきいいんしつ

 当時プレジアの理事であったティアルバー家の力により、室内には最新鋭さいしんえいの技術魔石がしつらえられ、高名な魔術師の研究室さながらの立体映像の出力が可能となっている。



 今その中央に、ヴィエルナ。

 そして周囲には、ひしめき合うようにして――――風紀委員、総勢四十名が集っていた。



 グレーローブをまとうのは、その中でもほんの一握り。

 ナイセストというかしらを失ってからの数か月は、彼らによる合議ごうぎでもって、風紀委員会は辛うじて機能している状態だった。



「……風紀委員長を決める、か。当てはあるのか? キース」

「……うん」



 生真面目そうな、灰色の髪を七三に分けた、背の高い老け顔の青年――――ペルド・リブスの言葉に、ヴィエルナがうなずく。

 ペルド・リブスは、ナイセストが健在だった時代からずっと、風紀委員内の風紀こそ正すべきではないか、と批判し続けていた人物である。

以前には、報道委員ナタリー・コーミレイと共に、犯罪者集団を庇護下に置き違法と横暴を振るっていた貴族、クレイテル家を取りつぶしにまで追い込んだ実績もある。

品行方正、根っからの正義漢せいぎかんだ。



 彼こそが、合議による風紀委員会の運営を牽引けんいんした存在である――――というのが、その他風紀委員の総意だった。

 故にナイセストが去ったのち、新しい委員長として真っ先に白羽の矢が立ったのが彼だった。



 しかしペルドは、その申し出をにべもなく断ったのである。

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