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「言ってくれ、キース。君は一体、誰が風紀委員長ふうきいいんちょうとして適格てきかくだと思ってるんだ」

「その前に」

「ん?」

「ペルド。貴方あなたが委員長にならなかった理由を、もう一度はっきり聞かせて」

「……言うまでもない。俺には背負いきれなかったからだ。『ナイセスト・ティアルバーの後釜あとがま』という重荷が」



 ――――ペルドの言葉が重力を変えたと言わんばかりに、周囲の風紀委員が一様にうつむく。

 みしめるように目を閉じ、眉根を寄せ。

 ヴィエルナが、後ろめたそうに目を開いた。



「……重荷。そうだね。ナイセストの後任それ、『重責じゅうせき』じゃなくて、『重荷おもに』。私もそう、思う」




 ――学長のように、早々そうそうに代理を立てるという選択肢も、あるにはあった。

 しかし代理とはいえ風紀委員長に収まってしまえば、それはつまりナイセストと同じ「格」を求められる、ということ。



 ナイセストが風紀委員長となる前は、風紀委員会の権力など知れたものだった。

 なんだかんだと言っても、所詮しょせんは組織運営のスキルなぞ持たない学生の組織ごっこ。

教師のサポートのもと、社会に出た時の組織運営、そして形ばかりの風紀維持を学ぶための場でしかなかったのだ。



それが、ナイセストが関わりだした三年前から急速に権威けんいと権限を増し――――貴族きぞく至上しじょう主義しゅぎの台頭を呼び、また貴族と「平民」の間に大きなをみぞを生んだ。



そのどちらもに深くかかわる、風紀委員会である。



「俺にも理想はある。プレジアがこれからどうなるべきか、その考えもある。だが……今この風紀委員会の双肩そうけんには、長が大貴族だったから・・・・・・・・・・おさえることが出来ていた『爆弾』が、あまりにも大きな障害としてのしかかっている」

「ば。爆弾?」

「俺達のしてきたことをかえりみるんだ、ビージ――――恨む者がいて当然だ。復讐を考えるものさえいて当然だ。そうは思わんか? テインツ、」

「え――僕?」

「お前は、ティアルバーに家を潰されかけたな。復讐を考えなかったか? 一瞬たりとも、彼や彼の『家』に危害を加えてやろうと、そういう思いには駆られなかったか?」



〝ティアルバーさんはお前と戦うのを楽しみにしてるんだ、そこに僕がお前を殺したなんて知れてみろ!! 僕は――僕の家族は今度こそ終わりだよッ!! クソォッッ!!!〟

〝……挙句あげくの果てに逆ギレかよ〟



「――……!」

槍玉やりだまにあげたようですまない…………だけど、これで解ったろう。貴族至上主義の一派だった者でさえ、腹に一物いちもつを抱えてる。きっとテインツに限った話じゃないだろう。そんな俺達にさえしいたげられていた『平民』と、その他大勢のプレジアの者達――……事ここに至って、彼らが俺達に最も望んでいるのは、一体なんだと思う?」

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