3

「………………。消滅・・か」

『!!!』



 誰もが胸に秘めた一言をえぐり出したロハザーに、ヴィエルナとペルドを除く全員が身を固くする。

 ペルドはあっさりとうなずいた。



「……今更委員長など要らない。俺達はただ息と身をひそめ、静かにプレジアから消え失せればいい。だから俺は、委員長を固辞こじしたんだ」

「だ――だがよペルドッ! 風紀委員会ふうきいいんかいはプレジア創設当初からある学校組織だ、なくすなんて決めたらそれこそ大問題に――」

構成員メンバーがいなくなれば組織は機能停止、自然消滅する。その後で、やりたい者がまた活動を始めればいいんだ――――その表情なら解ってるはずだ、ビージ。俺達にはもう、プレジアの生徒達に向けて解散を宣言することなんてできないし、求められてもいない。委員会そのものがなくなることなんて問題じゃないんだよ」

「――……クソッッ……!!」

「……俺の話は以上だ、キース。その上でもう一度こう。君は、一体誰が・・・・委員長として適格てきかくだと思ってるんだ?」

「…………」



 ――いいや、誰もいやしない。

――言えるものなら言ってみろ。

 そうした明確な否定ひていの意思がペルドの言葉に込められていることを、今度は誰もがはっきりと感じ取った。

ロハザーがヴィエルナを見る。彼女は口を固く結び、視線を下へ向けたままだった。



 ――テインツらの諦念ていねんと、集合の徒労とろう

ヴィエルナが口を開いたのは、そんな空気が場を満たしかけた時だった。



「……『俺達には』、『求められてない』。そうだね。その通りだと思う。そこに反論、ない」

「き――キースさん、」

「そうか。では結論は出たな。今は無理だが、学祭が終わり次第また正式に解散の――」

「だから変わらなくちゃ。いけないと、思うの」

「――変わる?」



 予想もしなかった方向へ流れたヴィエルナの言葉に、ペルドが一度目をしばたかせて眉をひそめる。

 誰もが当惑する中、ヴィエルナは静かながら決然とした眼差まなざしをペルドに、皆に向ける。



「風紀委員会、変わらなくちゃいけない。貴族がやる貴族のための風紀、いらない。貴族がやる、みんなのための風紀もきっと、求められてない」

「……そうだ、つまり風紀委員会そのものがもう求められていない。俺達の中から誰が委員長になろうが、」

「『俺達』じゃなければいい」

「……何?」

「これからの風紀委員会、は……貴族と『平民』の間のみぞ、少しでもめなくちゃいけない。それをせずにただ消えるだけなんて、許されないよ。だから変わらなきゃだめ。変わって、これからも動き続けなきゃ、だめ。だから」

「――ヴィエルナ、お前まさか」



 ロハザーがゆっくりと目を見開く。

 その意味をかいさないテインツが、集った面々が、一様にヴィエルナの顔をのぞき込む。



 小さく小さくくちびるふるわせ、ヴィエルナは言った。



「新しい、風紀委員長。『平民』から選ぶの、どうかな」




◆     ◆




「なんてことを……ああもうっ、なんてことを言ってるんだよキースのやつはッ!」

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