15



 気が付けば、目の前にバルコニーの柵。



 王族として人前に立つ最初で最後の機会。



 それがこんな砂と血にまみれた、痴態ちたいさらしながら斬首ざんしゅされる一度だけだとは。



(――――わたしのせいだ。全部。ぜんぶ)



 顔が悔しさにゆがむ。

 視界が涙でにじむ。

 旗を砕かんばかりに手に力がこもる。



 だが遅すぎた少女には、もうどうすることもできない。



 どうすることも、できない。



 背に視線が突き刺さる。

 嗚咽おえつでばかり返事をしていられない。



 せめて、最後の務めくらい果たさなければ。



「――リシディアの民よ。あなた達を守れなかったこと――」



  腹から剣が突きいでた。



「ッッ―――― 、っ、、、、 、」



 よろけ、バルコニーから落ちそうになる。

 柵に口から血がしたたる。



 投げた者など解っている。

 みじめさに、そして申し訳なさに、もはや痛みさえ感じていない自分に――少女はまた涙をあふれさせた。








 ああ、神様。

わたしは最期にたった一言、国民にびることさえ許されないのか。









 残った力を振り絞り、腕を上げていく。

 らしていた旗を、滅亡の印を、王女自らの手で立てていく。



 風がく。



 ココウェルを迎えるように、はたまた拒否するかのように風が吹きつけ、裸に剣の突き刺さったまま嗚咽おえつを上げる、痛々しい王女をよろめかせる。



 小さな泣き声を、あげながら。

 王女は、腕を――――――――――

























白旗滅亡の証を、空にはためかせた。


























「――――――――勝ったっ……」



 ノジオスが上ずった声でつぶやく。



 絶望のつぶやきが、泣きはらしたマリスタからすべての力を奪っていく。



「へーぇ、ホントに滅ぼしたよ」

「あの小男も、あんがいやるものですね、あねさま」

「バッカ。あいつの力じゃなくてアタシらのおかげだろ」



「カカカカカカ……カカカカカカカカカカカカカッッッ!!!」

「かった……」「え?」「かったのか?」「ってことは……」「終わり?」「リシディア?」「マジ? これでリシディアは――――」



「は――――――――――――――はっ。ははは……ずははは、はは、はははははははァッ、ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーゥァ゛アアアアアアッッッははははははははははははははははァ~~~~~~~~~~~~~~ッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 記録石ディーチェを通し。



 首謀者の勝鬨かちどきが、国中にこだまする。



勝鬨かちどきだ――勝鬨をあげろォォッ!!! 我々の勝利だ――――――リシディア王国は今ここに滅びたァァァァァッッッ!!!!!!」



 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――――――……!!!!!!!!!!



 悪漢達の狂喜きょうきが、王都中に響き渡った。



 フェゲンがニカリと笑う。



亡国ぼうこくの王女が事切れる前に処刑せんと、長剣ちょうけん抜剣ばっけんし――――









 ――――――――――――一閃いっせん

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る