14



 蹴たぐられ片目がれあがったココウェルが倒れたまま振り返る。



 フェゲンが抱え、剣を突き刺していたのは――――壁際で震えていた給仕きゅうじの一人。



「な――――なにやってんのよその人は民間、」

「おうとも。とんま姫の往生際おうじょうぎわが悪いばかりに民間人がどんどん犠牲ぎせいになっておるのよ――……立場をわきまえェ偽善者ぎぜんしゃがァッッッ!!!!!!」

「ッッ!!?」



 恫喝どうかつ

 フェゲンが貫いた給仕の足から長剣を引き抜き――――今度は首筋へと剣身をあてて、ニカリと笑った。



「さあどうするね。降って湧いたポッと出の責任感で、頑張る一生懸命な国民をこれ以上危険にさらすかね!?」

「・・・・・・・・・・・・・・っっ、」



 ――ココウェルが立ち上がり。



 涙のあとを残しながら、白旗を持ち上げる。



「……もう遅いのだ。貴様が為政者いせいしゃヅラできる日々などとっくに過ぎ去っておるのよ、とんまめが」

「・・・・・・・・」



 歯が軋む。

 いや、奥歯などとうに砕けてしまったか。



 歯がしびれるほどの怒りと悲しみと悔しさに震え泣きながら、ココウェルは再びバルコニーへ歩き始める。

 かすれたのどが音をらす。



 叫べるだけを、叫び尽くした。

 求められるだけの助けを、求め尽くした。

 あれが、今の自分に自分にできる精一杯だった。



 いや、あの給仕きゅうじの命を犠牲にすれば、あるいはまだ叫び続けることができただろうか――



(……違う)



 それは間違っている。

 自分の命を守るためでなく国を、そこに住まう人々を守るために助けを求めて叫んだのなら――ココウェルはあの時止まるしかなかった。



 しかし、そのせいで今国は滅びようとしている。



〝もう遅いのだ〟



 ただ遅かった。



 救国を叫ぶには、あまりにも遅く――そして非力だった。



 でも仕方ない、と少女は思っていた。



 自分はまだ少女で、だから非力で、だから誰にも認めてもらえない。

 考えに賛同してくれる人も、そもそも考えを聞いてくれる人も一人もいない。

 入口も無いのにどう政治の世界に入れというのか、と。



 どんなに学んでも、自分にはそれを活かす場を与えられない――そう悟り諦めてしまったとき、ココウェルはその虚無をただ暇潰ひまつぶしで埋め尽くした。



 王女としてわがままの限りを尽くした先に何が見えるのか、あるいは何も見えなくなるのか――城を抜け出しプレジア大魔法祭だいまほうさいへ行ったのも、ただそれだけの娯楽ごらくのつもりだった。



(その結果……わたしはここにいる。たった一人で、ボロボロになって。誰にも助けてもらえない)



 所詮しょせん、言い訳に逃げ続けただけだった。



 彼女は自分が誰かに話かけられたい、聞いてもらいたいばかりで、自ら話そう、聞かせようという意志を持ち続けられなかったことを、今更ながら思う。



 発すればよかったのだ。


 訴えていればよかったのだ。



 さっきのように、自分の言葉で――――気負いもてらいもなく、自分の気持ちを。



 止まらない。



 後悔と、悔しさの涙が――――あとからあとから、あふれて――――



「掲げよ」

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