第76話 ひるがえる白き

1

 王都ヘヴンゼル、ヘヴンゼル城前。



 そこは既に夢のあと、ならぬ戦の跡。

 攻め寄せた数多あまたの反乱軍と数多の王国軍が戦い、そして死に絶え――住民のすべてが退避したその場所は、武器と瓦礫がれきと事切れた者達の遺体いたいで足のみ場もないほど。

くうには死肉しにくに誘われたからすたちがその隊列・・が通り過ぎるのを今か今かと待ち、辛うじて現存する建物のへりにこぞってとまっている。



そんな残暑の中を、ココウェル・ミファ・リシディアは全裸に手枷てかせをされた奴隷のような出で立ちで、フェゲン率いるノジオス軍に歩かされていた。



「しっかし……コノウェル・ミフォ・リシディアの野郎、」「ココウェルじゃなかったか?」「なんでもいいって。w あのアマ、マジでいい体してやがるよなww」「あの胸、尻、顔。犯されるために生まれてきましたって言ってるようなモンだよなw」「あー、ヌきてェ」「マジで記録石ディーチェの一つも持っとくんだったぜ……あのフェゲンとかいうジジイが持ってねぇかな」「ばーか、少しでも機嫌損ねたら殺されるぞ」「あのジジイ、マジ何考えてっかわかんねぇからなぁ」「あれでも元は王国騎士だったらしいぜw」「あー。だから城の中に内通者とか送り込めたワケか」「まさかあの王女が城にいないとは思わなかったよな。最初は真っ先に誘拐ゆうかいする計画だったもんなw」「あのチビジジイ、いないと知ったときは真っ青だったぜw」「ハナが利いたんだろうぜ、本能的に。そういうの強そうじゃねぇか、あのエロ王女は」「性欲とかマジ強そうwww」「きったねー男共だなマジでw」「え? つかホントにさ、リシディア滅んだらあいつ王女じゃなくなるんだろ? 扱いとかどうなんの? 殺すの?」「さあ? 政治的にはまだまだ使い道あるんじゃねーの?」「どう考えても性的な使い道のがあるだろwwww」「あの体で政治は無理w」「騎士にも裏切られて、味方からも見放されて。確か一人でさ迷ってたところを見つかったんでしょ?」「どこに出すにも恥ずかしい、教本にさえ載らない出来損ないだからな。誰も助ける価値など見出せなかったのだろう」「かわいそー」「あの血筋がしてきたこと思えばかわいそうでもなんでもねーだろ。ホントなら王都全体を引き回してやりてェくらいだぜ……ざまあみろ」

「……………………」



 涙など、とうに流れ尽くした。

 感情など、とうに死に絶えた。



 そう思って心を無にしていなければ、ココウェルは到底この絶望に耐えられはしなかった。



「よもや、このような形で帰ってくるとはな。数十年を務めた我が第二の故郷に。カカ」



 手枷のロープを引いていた老騎士フェゲンがロープを引っ張り、ココウェルを城の前――――時折虹色がかる障壁しょうへきて切られた城の入口へと突き飛ばす。



「『王壁おうへき』を解け。傾国けいこくのとんま姫よ。せめて最後くらいいさぎよく王家らしいところを見せてみよ」

「……………………」



 もう自分の命は諦めた。

そう決めた。



 だが、もしかすると――自分は滅んでも、国くらいは生き残れるかもしれない。



 雑兵ぞうひょうどもを見る限り、ノジオス軍とやらもほとんどは烏合うごうしゅうだ。

 金でや暴力で団結しているにすぎず、ココウェルが見た限りでは何の志も持っていない。まかり間違っても国など担える器ではない者が大半なのだ。



 こいつらが国をるなどあり得ない。

 あの褐色の大男さえいなければ、治安部隊率いる第五騎士ゼガ・ラギューレや王宮おうきゅう魔術師長まじゅつしちょうだけで防衛ぼうえいは十分だっただろう。



 だとすれば――もしかすると皆、この状況下でも国くらいは・・・・・守ろうと動いているかもしれない。



 自分のような、生き恥などは、見捨てても――――王やリシディアなら、守ろうというつもりで動いてくれるかもしれない。



 わたしのように、一人でほっぽりだしても誰も探しもしない、なんてことはないかもしれない。

 構わない、自分などはもう構わない―「はぁ。どこまでいっても暗君あんくんか。貴様は」

「   え 、    え、」



 目の前に何か転がった。




 目の前に


     「え?」



         足の小指が、

「え……」転がった。   

   

                わたしの










「――――――――ッァぁぁぁあああああああアアアアッッ!?!?!???」

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