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「はい。そしてその者は恐らく――次弾もたやすく撃てる・・・・・・・・・・くらいの実力は持っている」

「ふむ。では一番手っ取り早いのは、やはり『王壁おうへき』の再起動でございましょうが……恐れながら、殿下は陛下へいかより王壁の根源となる魔石の場所を」

「知っています」

「…………」

「誰も教えてくれないから、自分で探して……確認しています。場所もはっきり覚えています」

「……やはり似ておられる」

「え?」

「いえ。さて――王壁の魔石の場所は王族以外が確認できないおきて。殿下ご自身で確認いただくことになりますが」

「…………」



 ココウェルがナイセストに目をやる。

 ナイセストは一人離れた場所で目を閉じじっとしていたが、すぐさまココウェルの視線に気付き、歩み寄ってきた。



「殿下、」

「ナイセスト。あなたに――」

「申し訳ありません。私は参ります」

「――え?」

「感知はできたのか。少々かかったな――鈍っているぞ。我らが主の御前おんまえで」

「申し訳ありません。この失態は成果で」

「ど――どこに行くというのです、あなたはまだ」

敵の感知を終了しまし・・・・・・・・・・。これよりそのすべてを除きます・・・・・・・・・・

「……すべて、除くですって……!?」



〝何をしていたんですか?〟


〝魔波感知を〟



「……できるというのですか、そんなことが。たった一人で」

「――我らはティアルバー。かしこくも宗主リシディア王家に臣従を許していただいた、名誉ある最初の大貴族・・・・・・

呵々かか……我ら一族は誓ったのです。宗主リシディアへの永遠の忠誠、そしてその為にこそ――――『最強』足らねばならぬ、と」

「…………!!」



 「最強」。



 そんな歯が浮くような寒い言葉を、大真面目に――――そして何よりの説得力をもって言い放つ二代のティアルバー。



「……一つだけ命令です、ナイセスト・ティアルバー……必ずわたしの下に戻りなさい。決して死ぬことのないよう――あなたの力はきっと、これから先のリシディアにも必要です」

「……それは」



 ――大逆たいぎゃくの罪人に、一国の王女が投げかけていい言葉ではない。

 そう思うも、ナイセストは話さず――ディルスはただ無言で小さく笑った。



「――必ず戻ってまいります。父上。それまでどうか殿下でんかを」

「この命に代えても。さあ行け最高傑作さいこうけっさくよ。今こそ我らティアルバーの役目を果たす時だ」

「……行ってまいります。殿下」

「!」



 言うなり、ナイセストが自身の影に沈むようにして消える。

 闇属性の転移魔法により、彼は音もなく城から消えた。



「……ディルス・ティアルバー」

「なんなりと」

「『王壁おうへき』の魔石の状況を確かめに行きます。ついてきなさい」

「……よろしいので? 王壁は――」

「戦場を一人で移動する方がよほど恐ろしい。解っていますか――もうわたしにはあなた達親子しかいないのです」

呵々かか。さてそれはいかがでしょうかな」

「え……?」

「我が感知が正しければ。もうじき――集団でここへやってくる者達が現れます」

「!」



 言葉と同時に、城門が勢いよく開かれる。



 駆けこんできたのはペトラ、シャノリア、リリスティア、そして――




◆     ◆




「あの馬鹿め……あれほど動くなと言いつけておいたのにっ……!」

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