6



 学校から一番近い街の一番外側、山あいに建つ小さなお城じみた建物。

 おキレイな模様もように作られた鉄柵てっさくの扉の向こうには、ひろびろ~とした緑の芝生しばふとこれまたこんこん~とわき出る大きな噴水ふんすいがある。

 ゴゴワー! と家を囲むこれまたキレーなレンガ造りのへいの近くには、ねえなんでそんな無駄なの胸焼けするんですけど、って感じの物々しい騎士の像が等間隔とうかんかくで並んでいて、庭の荘厳そうごんな印象をググッと強くしている。げろ。



 周囲の、ちょっとウッソウとした森の風景の中に突然現れる、そんな場違いに過ぎる……うん、誰が見ても、豪邸ごうてい



 これが不肖ふしょうマリスタ・アルテアスの生家せいか、ワタクシの実家にございます。



(……あしすすまねー)



 どーんとわたしの侵入をこばんでいる――いいえ、この家が私に侵入してくるのを拒んでくれている鉄格子てつごうしの門が、今の私の心をそのまま表してくれるよう。

 年末くらい帰って来いと言われて以来、実に実に久しぶりの帰還である。



 なんでこのクソ忙しいときに、わたしゃこんなとこに帰ってこにゃなりませんのよ。



「……………………………………………………」



 ……まばたきしたら消えてくれないかなー、これ。

 家も事件もアルクスもパールゥとのやんややんやも何もなくなって、のんびり目が覚めて伸びでもしながらナタリーに髪してもらって、んでケイとかと楽しく過ごすの。

 えへ、たのしい。



「………………………………、はぁ」



 はぁ。二回ため息もつきたくなる。

そんな日常に戻れるまでに、私は一体どれだけのことを成し遂げなきゃならないのか。

マジどえらく遠のいたよ、私の心の平穏。せめてなんか、こう、ひとときくらい――



「――お嬢様じょうさま?」

「に゛ぇっ?」



 ――今月一番変な声出た。

 妄想もうそうと絶望にトリップしてて全然気づかなかった私に声をかけてきたのは、一人のメイドさん。

 ぴしりときこなされた服の下で、メイドさんの顔がみるみるピシリとしていく。



 やべ。



「たっ、ただいm――」

「お嬢様っ!!!」



 遠くでワキワキと働いていたホウキとちりとりがパタリと地面に落ちる。

 そんな風に目を現実逃避させる私に突撃するようにして、メイドさんがいそいそと扉を開ける。

 あぁあ、そんなキイギイ音鳴らなくていいからっ……!



 とか思ってるうちに、はしと手を両手でつかまれた。



「お帰りなさいませッ! マリスタお嬢様っ!」

「た、た。ただいまアマンス」

「あぁお嬢様っ」

「でゃ、だだだ! て、そんな手ぇすりすりすんなってばも」

「ああそうだ! 『集合願います!――――お嬢様ですっ!!』」

「やっ……」



 私の野太い悲鳴など、メイドさんはまったく意に介さず。

 変える度に聞かされるウンザリの呪文ロゴスを、私はまた聞かされたのです、ええ。

 途端とたん



『お嬢様ぁっ!!?』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る