5

「それだけではありませんよ。学長とは青年期より、共に学び競い合い、この国の行く末を語り合った仲です。それを理由に私を容疑者ようぎしゃだと?」

「事が事だ。疑わしきを放っておけない」

「私のもとにはアルクスの一人も来なかったのに?……その場しのぎの弁明は見苦しいですよ、ガイツ君・・・・。師としてそんなことを教えたつもりはありませんが」

「昔のことだ、いつまでも先生面をするな」

「そうですね。昔は昔、今は今ですね。ではアマセ君を解放してくれますね?」

「それは俺が決めることではない」

「……恐らく拘束こうそくは君の判断だったでしょうに、落ちたものですね。残念です。では君たちの総司令の判断を待つとしましょう。ですが気を付けて――――また私達の生徒に過ぎた拷問を加えようとすれば、その時はリシディアでなく、このプレジアがあなた達を許しません。形も残らぬほど潰し尽くしますので、どうかその覚悟でいてくださいね」

「………………」



 ――初めて、小さく怒りの色を見せたガイツから目を離し、アドリーは去っていった。

 しまったドアを見つめながら、俺など見もせずにガイツが口を開く。



「感謝するんだな。気骨のある者が、教師連中の中にも居たことに」

「……『戦うならば確実に撃破しろ。敵わないなら全力で撤退てったいし、策を練れ』」

「……?」



 ガイツの目が俺に向く。

 拘束されていた感触の残る腕をさすり、立ち上がって軽く振る。



「聞き覚えあるだろ。前、あんたが実技試験じつぎしけん前に俺達義勇兵ぎゆうへいに言った言葉だ」

与太話よたばなしを聞く気は無い。心証でも良くしたいのだろうが無駄な――」

「探りさ」

「――わざわざ俺の疑いを濃くしてどういうつもりだ?」

「アドリーの言う通りだ。この状況でリシディアと力比べをしても前途ぜんとは暗い。アルクスは認められるどころか逆賊ぎゃくぞくの汚名を着る可能性の方が高い。勝てるとも限らん。……そんな分の悪いけに、『戦うなら確実に勝て』と言い放ったあんたが乗るとは思えない」

「…………」



 ……嘘の吐けない男だ。

 あまりべんの立つ方ではないのだろう。



「何か隠し玉があるんじゃないのか。こんな分の悪い賭けに出られるほどに、決定的な何かが」

「行くぞ」



 ガイツは答えず、他のアルクスと共に部屋を出ていく。

 俺が部屋の構造に意識を向けかかったとき、不意に彼の声が聞こえた。



「俺達は、このプレジアを守ろうとしている。お前はどうなんだ、アマセ」

「……そうは見えないな」

「…………」



 扉が閉じ、鍵のかかる音。

 ふらつくように壁に寄りかかり、強張った体から空気を抜くようにして溜息ためいきいた。



「……俺が、プレジアを守るかって?」



 ……冗談じゃない。



 俺は今、俺の現状を把握しようとするだけで精一杯だというのに。




◆     ◆




「…………ぅうェ」



 ……「胃が痛い」って、精神的なモンじゃないのね。

 物理的に痛むモノなのね。



 お腹が空きすぎて、胃酸いさんが胃袋を焼いているときによく感じる感じの痛みが、どんよりと私の胃腸を攻撃している。



 まったく、なんだってこんな大変な時に――――あの人・・・は、まだ出勤さえしてやがらないのか。



 胃をおなかの上からさすりながら、目の前にそびえ立つ大きな大きな門を見上げる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る