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 言葉を発した俺に油断のない一瞥いちべつを投げながら、ガイツがアドリーの言葉をき直す。

 アドリーは俺に穏やかな眼差しをちらと向け、すぐにガイツに戻した。

 


「あなた達は、理念を知らぬ者から見ればただの傭兵ようへいです。二十年前よりリシディアは国軍を再編さいへんし、現在明確な文書こそ出ていませんが、国王は傭兵組織ようへいそしきの解体を望んでいる、と数年前に演説の場でおっしゃっていました。そのときから、あなた達は暗に『違法集団』のそしりを受けるようになった……それを考えれば、あなた達の胸中など容易に想像が付こうというものです」

「本当か、アドリー先生」

「ええ。『違法集団を頼った』との悪評を避けた人々によって、実際にアルクスの仕事は激減しました。そればかりか――王国に仕える者達は、こぞってアルクスを馬鹿にしたのですよ。今でははっきりと上下関係を求められるようになった、と聞いています。差別された者です」

「でも、そこまでするならどうして、リシディアは私兵の禁止を法律にしないんだ? 二十年前から国軍の再編が始まったなら、とっくに法が整備されていても――」

「そうはいかなかったのですよ」

「……無限の内乱か?」

「その通り。アマセ君は、『無限の内乱』でリシディア全土にどれほどの被害が出たか、ご存じですか」

わかり切ってることを尋ねないでくれ」

「そう、ご存じの通り、王都は焦土と化しました。多くの人命が失われ、家屋は崩れ去り、王城も全壊に近い損害を受けました。それだけに留まらず、『魔女狩まじょがり』の後遺症こういしょうで今も苦しむ人々が大勢います。大貴族はひとつ潰れ、王族は二人しか生き残らず。当時創設されて間もなかったヘヴンゼル騎士団も、七人のうち五人もの騎士長が命を落としました……『再編』などという生易なまやさしいものではありません。リシディアは軍事力のほとんどを失っていたのです」

「こ。国軍が――ほぼ全滅?……そうか、つまり」

「そういうことです。当然、他国は――アッカス帝国はリシディアもはや国にあらずと攻め入ってきました。その時国家を救ったのが――――当時は広く認められていた、いくつもの傭兵組織なのです」

「……本当の意味での義勇軍だな」

「そうですね。そうした時代の流れの中で、プレジア魔法魔術学校は設立されました」

「……それが一転、今や傭兵は国家をおびやかす存在だと言われてる訳か。報われんな」

「ですから、あなた達アルクスがこれを好機とすることはよく分かります。ですが性急に過ぎる。どう転がっても国内情勢を不安にさせ、ひいては他国へすきを見せることになる――――違いますか?」

「…………さすが、と言うべきか。我々の状況をよく俯瞰ふかんしているな、容疑者・・・アドリー・マーズホーン」

「……容疑者?」



 アドリーを見る。その顔は平時と変わらず薄い笑みを浮かべたままだ。

 彼が容疑者?

今回の襲撃者事件の?



「……ふう。誰でも彼でも疑うのはよくないですよ。そうしたい気持ちも解りますが」

「同情するフリは止せ。知らないと思うのか、お前とクリクター・オースの関係を」

「いいえ。なにも隠しているわけではないですからね、学長との友人関係は」

「……先生。あんた、昔馴染むかしなじみか何かなのか。学長と?」

「ええ。学長とは――」

「昔馴染程度ていどであるものか。アドリー・マーズホーンとクリクター・オースは共にプレジアを創設した同志なんだよ」

「――創設者?」

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