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バババババババババン、と、屋敷中の窓が開き、あの人やらこの人やら、見覚えのあるメイドさんたちがあちらこちらから顔を出してきた。
いや、窓だけじゃないわ。あっちの植え込みこっちの噴水(!?)、果ては屋根の上でも叫んでる人がいて、みんな競争でもしてるみたいにダダダとこっちに近付いてくる。ちょ二階から
ていうか、ああもう――――お忍びで帰ってきたってのに私のバカアホ!
「お嬢様っ」「お嬢様」「お嬢サマ!」「お嬢様っ」「お嬢様!」「嬢ちゃま!」「おじょうさまぁ!」「マリスタ様」『お帰りなさいませ!!!』「おかえりなさいっ!」
「た、ただいま。る、ルルスあんたちょっと見ない間にまた背ぇ伸び……や、あふ、ぅいっ、ちょ。わぷ……わ、わかったからそんなさ、わっ?!?」
「それおめかししなくっちゃ!」
「半年以上ぶりのご家族
『はぁい!』
「ちょ、タパスさ――」
なんにも反論できないうちから、荷物奪われ、ローブ脱がされ、クツ脱がされ、髪ほどかれ――――気が付けば魔法で、私はタンカに乗せられている病人みたいにして家の廊下を運ばれた。
「はい! こちらにおかけくださいなっ」
「あ、ありがと」
「はいばんざーい」
「え、はい。ってんきゃあああっっ?!?! ぬがすなちょッ」
「はあ、いつもながら透き通るような素肌っ」
「きゃふんんンんっっ?!? せ、背中さわるなサフィッ」
「あンらまァ! よくよく見たらこんなところにニキビッ」
「いって?!」
「
『キャー!?!?』
「みんなで触んな悪化するわッ!!」
「よく見たらクマもホラ、うっすらり」
「たいたい、いたいから、んな心配そうにこすっても消えないからルルス」
「髪もツヤがなくなってるわ、あの美しいキューティクルはどこにいったの。よよよ」
「ちょっとバサバサしな――あクシありがと」
「さあ皆、行動開始!」
「はいはーい、お顔失礼しまーすお嬢様ー」
「は、はい。むむ」
「洗顔いたしまーす」
「足の指失礼しますね」
「て、手を失礼しますッ……」
「背中倒しますね~」
「は、はーい……」
……こうして、抵抗する気力を失っていくのもいつものこと。
そうして脱力している間に、あれよあれよとめかし込まされ、香水を吹き付けられ、爪と指はツヤツヤに整えられ、髪はサラサラに整えられ、顔はペカペカに女の子され、出された紅茶も飲み終わらないうちに、私はすっかりお嬢様に逆戻りしていた。
ちょっと胸元の空いた、普段着にしても派手過ぎないひかえめの青いドレスに、右に主張し過ぎない金の髪飾りのついたまっっすぐなロングヘア。
そのカッコを、ふだん滅多にしない
「きれーい」「素敵ですわお嬢様」「だいすき!」「可愛い!」「美しい!」「存在が罪……」「絶世の美女」「はい結婚」
「あぁあァあぁぁ、もうわかったから! アイサツしてくるから!」
『行ってらっしゃいませ!!!』
「もぉー…………ってうわ何この髪くっそサラサラ」
――まあ、別に見目麗しくなるのは嫌いじゃないけど。マッサージとかされて気持ちかったし。
じゃなくて。
「いかんいかん。ここに来た目的を忘れちゃだめよ、マリスタ」
ひとときのラグジュアリーな時間にたるんだ心をひっぱたき、目の前に迫ってくる扉を見すえる。
目的――
そのために私は――
「マリスタ?」
「――あ」
……聞きたくない声のうちの一つを、居間の扉を開ける前に聞いてしまう。
視界に私を認めたその人は、エプロンを外しながらにっこりと笑って、静かに私に近付いてきた。
「なあに。帰ってきてたの」
「……お母さん」
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