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 「マリスタを、目元だけ老けさせたような美人」。というのは、ナタリーの評だ。

 でも、こうしてお母さんの――――エマ・アルテアスの顔を見るたびに、はて私、こんな人の心を溶かすような優しい目をしてるかしら、と毎回思ってしまう。



「おかえり。随分ずいぶん朝早くに帰ってきたね」

「う、うん。ただいま」

「朝ごはんは?」

「あ、うん。大丈夫、すませてきたから」

「そう。あ、もしかしてお急ぎ?」

「う、うん。そう、なんだけど」

「……緊張してるのね」



 お母さんがニマリと、いたずらっぽく笑う。

 何もかも見透かされているようで、私はただ笑うしかなかった。



「あー、あのさ、お母さん。父さん、居間にいる?」

「ええ。いつもの仏頂面ぶっちょうづらで、新聞読んでる頃だと思うけど。――何、今回はお父さんに用事?」

「…………うん」

「あはは。もー胃なんか押さえて。よっぽどコワいのね」

「コワいさ……りょう入ってからロクに話も出来てないし」



 そうなのだ。

 父の反対を押し切ってりょうに入ってからというもの、私は父さん――オーウェン・アルテアスとろくに話をしたことがない。

 年末帰ったときも、顔合わせのアイサツ以外は顔も見なかったくらいだ。

 ……「見れなかった」の方が正しいんだけど。



「ホラ、アイサツいこ。うだうだしてたってコワいの消えないよ」

「わ、分かってる。……」

「そんな見なくても、一緒に行ってあげるから」

「あ――ありがとっ。はは、だいぶホッとした」

「はいはい。いいから開ける」

「う、うん」



 ……息を大きく吸う。

 意を決し、ゴンゴンとリビングへ続くドアをノックする。

 「そんなことしなくていいのに」と、お母さんに笑われた。



 両開きの、片方のドアだけを開ける。



 廊下ろうかと何ら変わりない、日差しでいっぱいの居間が最初に顔を見せて、そして。



「……マリスタか?」



 ……人間味の感じられない無機質な声が、鼓膜こまくに張り付いた。



「……うん。ただいま、父さん」

「何事だ。お前が朝から帰ってくるとは」

「………………」



 ……胃が痛い。

 元々怖いなとは思ってたけど、歳をとるごとにそれは増してる気がする。



 厳しい父さんだった。

 立ち居振る舞い、進路、勉強、考え方。

 全てに答えと意見を持って、何も持たない私に全てを持たせてくれようとする父親。



 世間ではそれを、立派な親というのかもしれない。

 でも――私はそんな父さんの在り方が、どうも押しつけがましくて好きになれなかった。

 それは歳をとるごとに、増して――――



落ちたものだ・・・・・・、プレジアも〟



「………………っ」

「? マリスタ?」



〝根本的に使えんのだ、お前達餓鬼がき共は〟

差別さべつ偏見へんけんと、傲慢ごうまん浅薄せんぱくに満ちた温床おんしょうで肥え太ったお前達何の力も無い生徒達に!!…………一体何をどう期待して信じろというんだ〟



 ――この人だ。

 この人が言わせているんだ。

 この人がケイを捕まえて、学祭を中止させて、私達を事件から遠ざけて――――ココウェルと、王国と戦争をしようとしてるかもしれないんだ。



「ちょっと、マリスタ――」

「………………」



 それは、許せない。

 許しちゃいけない!

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