3



「…………闇の『侵蝕しんしょく』」



 ヴィエルナが、それだけつぶやく。



 ナイセストは、否定も肯定こうていもせず――背後の弾丸を、発射した。



「っ――!」



 バタつきながらも、素早くけるヴィエルナ。

 床で小さくぜ、空気にけるようにして消える弾丸。

 やがて、それが当たり前であるかのように――ヴィエルナは弾に追いつかれ・・・・・



「いやッ!!!」

「ヴィ――――」



 体中を、黒きくいつらぬかれた。



「ぁ――――ァあああっ!!!」



 しぼり出したような悲痛な叫びが、スペースに響く。

 ヴィエルナの体中から、肉を焼くような音が染みでる。



 ナイセストは、またもそれを冷たい目で見下ろしていた。



「ぅ……ぁ、くっ……」



 対するヴィエルナは、地に倒れたおのが身を起こすので精一杯。

 何とか立とうとするものの、四肢しししんを失ってしまったかのように力が入らない。



 ナイセストが、ヴィエルナの顔をり飛ばした。



「ッッッ!!!!」

「落ち着いて、マリスタ。ここで怒ったってどうしようもないわ。これは試合なんだから」

「あ、あたしもそう思うわよ、マリスタ。それにホラ、キースさんだって英雄の鎧ヘロス・ラスタングを使ってるんでしょ? ある程度なら」

「いや」

「耐えられる…………え?」



 システィーナに次いだエリダの言葉を、けいがスペースを見たまま否定ひていする。

 顔を怒らせたまま、マリスタが圭を見た。



「……雷属性かみなりぞくせいが相手にしびれを与える付加効果ふかこうかを持つように、他の属性も様々に特性とくせいを持っている。火は燃える、水はれる、氷はこおらせる、といった具合にな。……だが闇属性と光属性ひかりぞくせいは、特性の毛色けいろが少々違うんだ」

「毛色が違う?」

「ッッッ!!!!!!!」



 髪と肩をわなわなとふるわせ始めたマリスタの腕を、パールゥがおずおずとつかむ。

 スペースでは今まさに、体勢を立て直したヴィエルナが、顔面に拳の追撃を受け、顔から地面に落ちたところだった。



 ナイセストが軽くび、倒れたヴィエルナの頭上から全体重を乗せ――



「ァぁッッ!!!」



 マリスタの悲痛な叫びは杞憂きゆうに終わる。

 間一髪かんいっぱつ、ヴィエルナは体を転がして踏み付けを避け切った。

 ナイセストの踏み抜いた床がひび割れ、陥没かんぼつする。



「っ……っ……!」



 再びナイセストを見たヴィエルナの顔からは、今度こそ幾筋いくすじもの血が流れしたたっていた。唇と目蓋まぶたの上を切ったのだ。



「き……キースさんってば、メチャクチャ息上がってない?」

「当然ですよ。今の彼女の身体からだでは」

「ど、どういうことよナタリーっ」

「ケイさんがおっしゃっていたでしょう。闇属性には、他の属性にはないめずらしい特性――――魔力回路ゼーレ不活性化ふかっせいかという付加効果があるのです」

「ふ、ふかっせいか???」

魔法まほうが使いにくくなるのですよ。闇属性の魔法を食らってしまった人は、魔力回路ゼーレをその闇に『侵蝕しんしょく』されてしまいます。闇におかされた魔力回路ゼーレでは上手く魔力まりょくを練ることが出来なくなり――――魔力の質は低下、それを使った魔法も正しく動作させられなくなってしまう」

「魔法が使いにくくなる…………ちょっと待って。てことは、まさかっ、」

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