第57話 不安という信頼

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「すっごくよかったわよマリスタ、シャノリアちゃん。真に迫るシーンがいくつもあって、これが本当に学生劇なのかってくらい興奮しちゃった――――ああ、ごめんなさい失礼なことを。私まだ舞い上がっちゃってて――」

「そんなに喜んでもらえたなら本望ですよ。ね、マリスタ」

「は、はい……あ、」

「あら、あなた。マリスタはここよ。声かけなくてもいいの?」

「…………」

「と、父さん……ホントに見に来てくれてたんだ」

「何言ってんだ。お義父とうさんが一番見たがってたんだぞ」

「え……え!?」

「余計なことを言うなサイファス。…………」

「……父さん。あれが私の、」

「いい出来栄えだった」

「…………、」

「少なくとも、お前が本気で取り組んでいたことはわかった。……今後もはげめ」

「――ありがとう!」

「しかし忘れるなよ。お前の身体はお前ひとりのものではない。自分が国家の一翼を担う存在であることを――」

「もうあなたったら、こんなところでまでそういう――」

「私、特にプデスとクヲンの決戦のシーン好きだった~。あれだけの動き、相当練習したでしょボルテールさん」

「そ、そそそ、そんな、ハハ……り、リリスティアちゃんにめてもらうほどでは、ハハハふぇぐぇっ」

「あはは、泣かないでよこんなことでー」

「よかったね。劇の評価そのものには影響ないみたいで」



 俺の隣に並ぶギリートが、抜け抜けとそんなことを言う。

 俺はそれを見もせず、否定も肯定こうていもしなかった。



 劇は終わり、今は客出し――――会場から出る客を出迎でむかえるサービスをこなしている。

 大半の客にとって、俺とギリートのり合いは無事「芝居しばい」の一環に見えたようだ。

今は背の高いギリートに隠れるようにしながら客をやり過ごし、戦いでできた傷を見られないようにしている。

れてきている気がする首元や火傷やけどの後は特に、報道委員にでも撮られれば弁明のしようがない。



 ……まあ、報道の奴らに関しては、そう心配でもないか。

 マリスタが関わる・・・・・・・・劇の評判に影響するスクープを、この女が許すはずも無いし。



「……なんですか。用も無いのに汚らしい目で私をながめ回さないでください」

「用があるのはお前だろ。さっきからジロジロ見やがって、気付いてないとでも思ってるのか」

「チッ」

「舌打ちかよ……いいから話せ。それとも人前じゃ出来ない話なのか」

「だから言い回しがクソいんですよ貴方あなたはッ。…………ですけどまあ、その通りです。客も今ので最後のようですし、とっとと済ませますかね」



 ――結構な時間が経っていたようだ。

 ナタリーの言う通り、あれだけ俺や他の関係者の前後でひしめいていた客達はいつの間にかすっかり姿を消し、残っているのは――――遠巻きに俺を見るアルクスの兵士長へいしちょう、ペトラだけ。



「……確かに急いだほうが良いな。それで、要件はったい!?」

「づぉっ!?」



 ――背後から頭部に衝撃。

 と同時に聞こえる、ギリートの素のうめき声(何度も聞いたから間違いない)。

 振り返った先には、



「――――ッたい何を考えてるのあなた達はッ!!」

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