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 鬼の形相ぎょうそうをした、監督かんとく――――ではない・・・・、シャノリアの姿。



 ――客の大半・・に、芝居しばいに見えたであろう俺とギリートの戦い。

 だが裏を返せばそれは……見る人が見れば芝居には到底とうてい見えなかったであろう、ということ。

 今後頭部に感じているのは当然の報い痛みだった。

 そして――――シャノリアの背後から迫る、その怒気どきも。



「解ってるの? 自分たちがどれだ――けっ!?」

「――ッゥゥッッ!!!」



 乱暴につかまれる右肩みぎかた



 を意識したときには――――俺のよこつらは、綺麗きれいに入った右ストレートに押しつぶされ、体は攻撃者と共に背後に吹き飛んでいた。



 震動。

 固い床に全身をしたたか打ち付け、直後腹部への強烈な圧迫。

内臓が口から吹き出そうな痛みに思わずむ。

 辛うじて開いた目で見ると、腹部には真っ白な素肌すはだにいくつかの青痣あおあざを持つひざ

 どうやら重力の乗ったニードロップをもらった痛みだったようだ。

 俺にまたがった憤怒の少女。

遅れて降ってくる銀髪。

吹き出た涙で見えないが、こいつは恐らく――――



「きゃあいたッ!」

「フェルトニスさん!?」

「ちょ、生身にそれはヤバいってリフィリィ!」

「ウゥゥウ――――ッッ!!!」

「ちょっとちょっと、」



 俺の上で振りかぶられた右拳みぎこぶしが、すんでのところでつかみ止められる。

 俺のそばで神の鎧のすそひるがえり、それがギリートであることがわかった。



「離せッ!――止められる立場だと思ってるのかイグニトリオッ!」

「言いたいことはわかるけどそれでアマセ君だけ狙うってのはフェアじゃないし腰抜け過ぎるでしょきみ。まあ頼まれたって僕は殴られてはやれないけど」

「お前ッ――――」

「やーめなよ。敵うワケないんだから。優しくしてあげてるうちに落ち着いたほうがいいよ」

「このッッ!!」

「ギリートッ」



 ……存外ぞんがい低く出た声に、双方が動きを止めて俺を見る。

 俺は涙でにじむ視界をまむようにぬぐい、改まってリフィリィを見た。



 本当に涙で目を曇らせていたのは、彼女の方だった。



「……ちゃんと謝りたい。起き上がってもいいか」

「!」

「…………」



 ギリートが片眉かたまゆを上げ、少しだけ口をすぼめる。

 どうもこの後の嫌な流れを察知したらしい。保身ほしんにもしっかり頭の回る奴だ。

 だが――俺とお前は共犯だ。

 共に罪を犯した身である以上、お前も――――この場の謝罪だけはまぬがれない。



 立ち上がり、劇を共に作り上げたメンバーに深々と頭を下げる。



「すまなかった。みんなで作り上げた劇を、俺達のせいで滅茶めちゃ苦茶くちゃにしてしまった」

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